きらめき高校吹奏楽部 ~もしきら高に歴代ヒロインがみんな居たら~      片桐さんの視界

やがてドロドロになりそうやなこのパートww


こんちはー
なんだかんだいって4期も50くらいいきそうですねこれ。


この片桐さんの話を書いてたらふと片桐さんを攻略したくなったんですけど、forever with youの川口さんは酷いですねw彩のラブソングん時はすげー演技上手くなってるんですけど、本編はいろいろひどい…。


まあそれでもプレイして思ったんですが、片桐さんは面白い人ですね。
なんかときメモの人ってみんな冗談通じない人多いじゃないですか。その中でも冗談に冗談かぶせてくるし、言いたいことはっきり言うし、初代にしてなかなか面白い子だなと思いました。


しかもその冗談とか言い合える仲だからこそ、仲良くなればなるほどマジな話がし辛くなっちゃうみたいな感じもなかなか良かった気がします。そこまで露骨に青春ドラマはしてませんでしたが、片桐さんにそういう要素があるのは確かじゃないでしょうか。


なんていうか、「ときメモ」ってゲームのコンセプトが、最近のギャルゲーエ○ゲーとは違う感じがするじゃないですか。


なんていうか、最近のギャルゲーとかは、現実には到底居ないような女の子と恋愛をするのが目的な感じがします。仮想は仮想、だからこそいい、みたいな。逆にときメモ(GSはわかんないですけど)は、ぶっ飛んだところもあるものの、理想の恋愛をするのが目的って印象を受けます。まあ、ぼくの主観ですけど。


だから天才とかすげーお金持ちとか出てくるけど、何歩も間違えたらこんな子本当に居るんじゃないか?と思わせるような要素がたくさんあるんですよね。


よってそれが、実体験に結びつく人も居るんじゃないでしょうか。
うわ高校時代の元カノ、こんなこと言ってたなぁ、とか。あん時よく遊びに誘ってきた先輩、結局俺コクれなかったけど
コクったらいけてたんかなぁ、とか。クラスのあの子、落とせてたらこんな感じだったんかなぁちくしょー、とか。


片桐さんの主人公君との関係も、そういう感じな気がします。
よくある友達の一線を踏み越えられない、親友以上恋人未満みたいなw


留学しちゃうほどの天才はそうそう居ないですけど、案外そういう普通の女の子的なとこもあって、見晴ちゃんとは違う「極近い距離感での切なさ」みたいなのが、強大な美術の才能を忘れさせちゃうくらい親近感を抱かせて、人気キャラになったんですかね。あっやべえ前書き超長くなったもうやめよ


以下本文
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「私が描いてきてあげる」


冗談みたいに軽いノリで言った片桐の言葉をどこまで本気にしていいやら、直人も光もわかりかねた。片桐が絵画を得意としていることは、2人とも、なんとなく部内の噂等で知っている。だが、たった1日、しかも部活から帰って既に外も暗くなってから描き始めるとなると、どこまで仕上げてくるつもりだろう。


「どうすんだよピカソみたいな抽象画書かれたら」
「えっ…もう、そういう風に吹くしかないよね」
「いやいやいや、そういう風ってどういう風だよ」


4限が終わってからお昼休みになって、冗談気味に話しながら2人で理科棟の屋上へ。ここで、サックスパートだけで固まってお昼を食べるためだ。


彼らが屋上へ着くと、すぐに語堂もやってきた。
だが、5分、10分と過ぎても、肝心の片桐がなかなか現れない。


「そういえば片桐さん、朝練もいなかったよね」
「あれ?もしかして片桐さん学校休んでる感じ?」
「もうちょっと待ってみる?
 それか、電話かけてみたら?」
「うーん。まあちょっと待ってから
 来なかったらかけてみよっか」


…と、話していると、屋上の扉が開いた。


「ソーリー。お待たせしました」

軽く手を挙げて現れた、部の創始者。
直人はこれに「お待ちしておりました」と冗談で返し、彼女を輪に迎えるようにして地べたに座り込む。


「なに、どうしたの。
 先生に呼び出された?」
「そんなわけないじゃない。
 私みたいな模範生徒が」
「よく言うよ、水泳ズル休みする人が。

 
 てか、昨日の話だけどさ。
 マジで描いてるの?」
「絵の話?
 オフコース、ちゃんと描いてきたわよ。

 そのせいで朝起きられなかったけど」


現在進行形ではなく、もう「描き終えた」と豪語する片桐。いつも通りに自信ありげな飄々とした様子で答えるから、光も語堂も「よほど出来のいいのが描けたのかな」と思ってしまう。いや、この人はいつもこんな感じか。さすがに半年以上も角付き合わせれば、なんとなくわかってくる。恐らく彼女のこの余裕は、絵の完成度とはあまり関係がない。


となると、開けてみなくてはわからない玉手箱。

3人の期待と好奇心が乗り移った視線が集中する鞄から、片桐が取り出したのはスケッチブック。それは、わざわざ今日のために買ったものではなく、結構使われているものらしい。片桐はパラパラとめくって、昨夜の戦果を探しつつ「えーっとー…」と呟く。


「あったあった。
 まだ色が塗れてなくて悪いんだけど――」
「ああいや、全然いいよいいよ。
 昨日の今日なんだから」
「ソーリー。
 まったく、カラーが無いとか言ったのは
 どこの誰かしらね」


ちょっとした自虐の冗談を飛ばし、ひとつ咳払い。
そうして「Ta-da!」と幕を開ける盛大な擬音を口に出してひっくり返したスケッチブックには…。


「わっ!すごい!」
「すげええええ!なにこれプロっ!」


舞台は西洋のお屋敷。

湯気の立つティーカップを片手に新聞を広げる紳士が着くテーブルの周りで、女の子と男の子が楽しそうに「ここがぼくの席!」「あたしの席はこっち!」と話していて、朝からドレスを着込んだご婦人がそれを「ちゃんと座りなさい」と少し困った様子で注意している。


部屋の外、窓からは犬の姿が見え、こちらはまだ眠そうにあくびでもしているかのような表情だ。その上空には目玉焼きよりもトロトロした朝日が昇りかけていて、雲ひとつ無い空の主役を今にも果たそうとしている。



「ほんとはもっと面白い設定も考えたんだけど、
 やっぱりオーソドックスな方が品のある音になるかなって
 思って。

 
 時代はそうね、「マイフェアレディ」とか
 その辺りかしら」
「すげーわホント。
 こんなの、色塗ったらほんとに美術の教科書に
 載ってそうじゃん」
「あっ、そうだね!いえてるかも!」


絶賛する2人。語堂もまた、口に手をやって黙って絵を見ているところを見ると、その画力を素直に認めざるを得ないと考えているに違いない。


そして、この絵はただ上手く描こうと思って創られたものではない。
片桐はちゃんと、この絵の中に、曲へと通ずるストーリーを考えてきていた。


「この子どもたちの元気な声で、このお屋敷の朝は始まるの。
 最初のアクセントの音でドアがパッと開いて、子ども達が
 仲良く階段を降りてくるわ」
「ああ、あの16分音符は子供の足音とか
 話し声的な感じ?」
「ザッツライト。そうよ。

 そして「こら、あまり騒がないの」と子どもたちを
 たしなめるのが、途中で高いところから優しく
 声をかける――」
「ソプラノサックスのお母さんの声?」
「そう!そして何度かやりとりがあって、婦人が言うの。


 「あなた、お紅茶が入りましたよ」って」
「あっ、じゃあそれでソプラノのメロディに入るんだ!」


と、楽しそうに話す片桐。
しかし彼女の言葉を聴きながら頷く直人は、ふとその微笑を収めてしまった。



こんな風に、音が作り上げる風景を考えて構築し、音のひとつひとつが景色の中でいうどの人物、物に相当するのかを考えることは、今まであまりしてこなかった。


なんとなくは考えたことがある。
このテナーの伸ばしの上で吹くのはフルートが唄う鳥の囀りだから、自分の音よりユーフォメインでブレンドした方が邪魔にならないだろう、とか…。しかし、それをすべての音に行き渡らせていたわけではない。


ということは、これまで自分は麻生 華澄という指揮者が用意したキャンパスの上で、無色透明の音を吹いていた瞬間が、少なからずあるということになる。


直人にはそれが、ショックというか、恥ずかしいことのように思えた。

自分の演奏に足りないものが、この絵にある。まるで手鏡に相対して酷いニキビを見つけて悔しがるかのように、片桐の絵を見て課題に気付かされたのだ。



…よく音楽も、美術といっしょで芸術とかいわれる。
それは、決して取り返しのつかない瞬間瞬間に、奇跡みたいに合った和音やリズムの組み合わせで言いたいことを刻み付けるからなんだと思う。


けど、刻み付けてるのは決して耳(聴覚)だけじゃない。
見えないはずの絵や風景も、空気を震わせて作り出すんだ。目と耳で味わう、感じる度に変わる時間単位の物語と風景。それが音楽が芸術って言われる所以なんだろうね、やっぱ。


それが、響野さんとかが言うサウンドスケイプに繋がんのかな。

この絵でいえば、バリトンの低音はただの音楽上でいう支えってだけじゃなく、のろまでけれど利口で優しい犬のあくびや足音だから、まろやかで柔らかいのが欲しい、とかさ。しかもそれが全体の中のどういう配分で聴こえるのが理想だ、とかもあるから調整すんのはすげー難しい。



……。
そりゃああれだよね。全国の吹部さんがコンクールに向けて、まるまる1年かけて課題曲と自由曲を練習するわけだよ。12分間だけの演奏かもしれないけど、全部の箇所を調整して回ってたら、いくら時間があっても足りないよそんなの。



…すげーな、音楽って。



なぜか絵を見ているだけなのに、自分になかった要素をいくつも見つけだした気がして、胸の中がざわついた。早く楽器が吹きたい。ティータイムの画集、これを違う視点で聴いてみたい。そんな向上心と好奇心が肩を組んでダンスをし出したか、直人は無駄にそわそわして、絵を直視できなくなった。


皐月 優がかつて光に言った、「音の様々な要素」を、音を聴かずして見つけたのである。今度は自分も筆を持ってキャンパスの前に立ちたい。そういう思いが、ポケットの中に隠した左手に乗り移ったか、サックスの運指を無意識の内に奏で出す。


「…高見?」
「あっ、えっ?」
「どしたの?」


はっとした。
突然、語堂に声をかけられたのだ。


「絵、全然見てないじゃん」
「い、いや…」
「もしかして、高見画伯はお気に召さなかったかしら?」
「いやいやいや、そんなことない。
 すげーいいと思ったよ。

 うん、ほんとに、マジで」


茶化しながら訊いてくる片桐に、首を横に振りまくって「そんなことない」と答える。


だがこの好奇心の熱が、お昼休みが終わった頃には少し落ち着いてくる。そうなると、熱くて出来立てで味わうことすらできなかった料理の味が、舌の上で味覚を醸し出してきた。


…やっぱ俺、センスねーよな。

5限目、別のことを考えたくなるほど進みの遅い古典の授業を受けていると、そんな味が苦味に変わってきて、あの口の悪い同級生のことを思い出したくなった。


今はひびきのに進学した、中学時代の戦友。
彼がセンスある攻めをできていたのも、片桐と同じく無意識に音で物語を作っていたからなのかもしれない。


直人はその域に達するどころか、物語を紡ぐための音、それを磨くだけで精一杯という体たらくだ。確かに磐石な地盤を作り、確固たる土台でストーリーを作れれば、それに越したことはない。だが、それだけに固執してしまうと、ただのベルトコンベアの番人になってしまう。


来る日も来る日も、とりあえず自分の仕事をまっとうし、コンベアの上を流れてくるネジの中に不良品が無いか目を凝らし続ける。このネジが何に使われるのか、どの部品と噛むのか、そうしてできた商品が誰の役に立つのか、そんなことなど一切気にしない。…それでは何も面白くない。


そんなことで誰かを感動させられるはずがない。
自分の音を活かし、他人の音を活かすなら、やはり片桐のような感覚は必須に違いないのだ。


それも「この音は絵の中でいうと何だろう?」というような疑問すら、生ぬるい。もう音を聴いた瞬間から風景が浮かび、登場人物の着ている服からネクタイの色、引いては心情まで思い浮かばなければ、その時点で考えが足りない。センスがない。




…俺も高校入ってから、ほんと色々考えるようになった。
今日のストーリー性のこともそうだし、音の中から色々聞き取れるようになった気がする。中学時代はあんなに必死にやってたのに、それでもあの頃聴こえてなかったことが、今、わかる。


別に今は、地方大会まで進まなくたって誰も怒らない。
C部門で金賞取っただけで大騒ぎなくらいだし。


それでも、きら高入ってから進歩できたことも多い。
やっぱそれは、逆に厳しくない吹部に入ったから、自分でなんとかしなくちゃいけないとこも多くて、それでなんとかなったところもあるとは思う。


でも…それだけじゃない。
あの人がしれっと吹いた音や、言った一言。それに、色んなことを教わった気がするんだよね。


「――勝つか負けるか?
 そんなのSoliを吹くのに関係ある?」


部活なくなるって言われてんのにあんなこと言ってさ。
ほんと面白い人だわ、片桐さんって。


…もし、中学時代、俺の横に片桐さんがいてくれたら。
今の俺が、中学時代に戻れたら…どうなってたのかな。


…いや、そんな仮定意味ねーか。
けど、もし…俺に片桐さんみたいな着眼点があったら、もっと今よりいい演奏できるのかな。そしたら、約束の答えも見つかんのかもしれない…。






感覚の中にある眼。
それを移植できたらどんなにいいか。

彼女がどんな感覚で音の中に景色を見出しているか。あるいは直人の見ている風景でさえ、彼女にはどんなに刺激的に見えているのか。それを直人が知るには、彼女と言葉を交わし、音を交わし、物にしていく他ない。


だから、

「ねえ、帰り暇?
 ちょっと話さない?」

誘ってみた。突然だし断られるかなと思ったが、案外即答された。


「1時間1200円になりますがよろしいでしょうか」


こんな冗談は、もう「別にいいわよ」と言っているようなもの。
練習が終わって音楽室周りの鍵を閉めた後、2人は渡り廊下に残って話を始めた。この季節、あのベンチに行ってもどうせすぐに暗くなって、夕陽も見れなくなるからだ。


柵にもたれて立つ片桐の横、直人は柵に手をかけて、校庭の方を見ながら楽器ケースをかけた肩を回す。「降ろせばいいのに」と言われたが、硬い渡り廊下の床はサックスにやさしくない。たとえソフトケース越しでも、あまり置きたくはなかった。


「ねえ」
「ん?」
「…あの絵。
 やっぱり気に入らなかった?」


切り出したのは、片桐。
結構真面目に言われているような気がしたが、相手が相手。冗談で返した方がいいか、少し考えてから直人は答えた。



「いや、ホントすごいと思ったよ。

 もう気に入らないとこなんて、
 上手すぎて憎たらしいってとこぐらい」
「アハハ。
 ならいいんだけど」
「…ほんと、時々マジで憎たらしくなるよ。
 片桐さん、ガチですごいから」


ふと、策を触った手が汚れていないか気にする。
…大丈夫。さすがきら高生、掃除ちゃんとしてんな。


直人は、自嘲的な苦笑を浮かべて唇をぎゅっと結ぶ。


「what?すごいって、なにが?」
「いろいろ。

 あの絵もさ、片桐さんが何考えて吹いてんのか、
 それがそのまま描いてあるみたいで、すげー感心した。


 俺、あんなにちゃんと物語とか景色とか考えてなくてさ。
 やっぱ…すげーセンスあるよ、片桐さん。


 TomorrowのSoliん時も、片桐さんがそうやって
 色々考えてくれたから、うまくいったんだと思う。

 
 だからさ、なんかあの絵見て…いっつも片桐さんに
 そういうことやらせてたんだなーって思って…」


ごめん。

そう言い掛けた時、またも意外な一言が隣からぽろっと返ってくる。


「それはお互い様じゃない」
「え?お互い様?俺なんかしたっけ?」
「あなたのテナーのサウンドって、いつも優しいでしょう」
「優しい?」
「ええ。
 誰の邪魔もしないし、組む人によって自然に音を
 変えるし。


 それって、聴いている人のことや、一緒に吹く人のことを
 考えてやってるんでしょう?」


…まあ、合ってるっちゃ合ってんのかな。
そんなすごい考えてやってるわけじゃないけど、そりゃブレンドする相手によって音色や音量変えるし、それができるからテナーは難しいけど面白いって思うし。


「私、前言ったでしょ。
 楽しくないことを無理やりするの、好きじゃないって。


 私はただ楽しく吹ければそれでいいの。
 でも、あなたの言ってた通り、自分勝手だけじゃ音楽にならない」
「まあ、確かに…」
「けど、いつもあなたが周りをしっかり引っ張って
 メロディラインを引き立ててくれるから、
 私も心置きなく楽しめるのよ。


 だから、持ちつ持たれつ。
 お互い様よ」


あっけらかんとした顔で言う片桐。
だが、直人はその言葉を隅から隅まで拾い集めて、吟味して、噛み締めて、そして嬉しく思った。


自分の仕事をこんなに認めてくれている人がいる。
ただのお世辞ではなく、具体的に、はっきりと。


かつても渡瀬 公一から「お前の音はいい」「お前、音だけはいい」と言われてきたが、何がどう具体的に良いのかまでは教えてもらえなかった。彼ももしかしたら、片桐のようなことを考えていたのかもしれない。


「…そっか。

 へへ。なんか、ありがと」
「いいわよ、お礼なんて。

 だいたい、私から言わせればあなただって
 十分面白いと思うけど」
「え、マジ?」
「ええ。そうじゃなかったらあんなつまらない
 全部テヌートの練習なんて、続けてないわよ」
「あっ…あれ、やっぱつまんなかった…?」
「そりゃあ、もう。

 
 そういえばこないだ、バンドのオファーを
 受けたって話したじゃない」
「…は?

 え?なにその話。今初めて聞いたんですけど」


まったく初耳の話。
顔を引きつらせる直人に、片桐は夕陽で顔を染めて、首をかしげる。「あれ?言ってなかったっけ?」とでも言いたそうな丸い目には、悪気が一切見えない。


「文化祭でも演奏してたけど、「彩」ってバンドが
 ウチの学校にあるでしょ?」
「あ、ごめん。
 俺、仮装行列やってたから聞いてない」
「とにかくそういう名前のバンドがあるんだけど、
 ボーカルの先輩が今度引退されるらしくて、
 その穴に入ってくれないか?って声をかけられたのよ」
「えっ、ちょ、マジ!?」
「ええ、マジよマジ。
 
 「片桐のシャウトがウチに欲しい!
  どうしても必要だ!」って熱く熱く言われちゃった」


知らないところで、まさかの引き抜き活動が行われていたことに、直人は驚く。それも、なんだかこの人ならふとした弾みで新天地へ旅立っていってしまいそうだから、恐い話だ。


「そ、それで。なんて答えたのっ」
「んー…。
 なかなかinterestingな誘いだったのよね。

 
 どこかのパート練習はずーっとべた吹きで
 ずーっとフォルテばっかりで、雰囲気も暗くなるし
 なんだか大変だし…」
「う、うっ…」
「抜けちゃおっかなぁ、
 高校生活も3年しかないもの、
 モテモテのバンドに入って楽しんじゃおっかなー。


 …と、ちょっと思ったりもしたわ。
 でも、断ったけど」


まあ答えはわかっていたようなものだが、それを聞いて直人は内心ホッとした。…もー、軽音もそういうことすんなよ!人ん家の部員取るようなことしてー…。


「アハハ!一瞬ほんとにバンドにいっちゃうと
 思ったでしょ」
「い、いや。最初から信じてましたよ」
「嘘ばっかり!
 顔が本気だったわよ」
「も、もー。
 そういうガチな冗談やめてよ!

 笑えない笑えない」


片桐の方を見て苦笑する、テナーの彼。
その不恰好な笑みを見ていると、どうしても片桐は笑いをこらえられなかった。



……そんなに私に、バンドに行って欲しくない?
ふふ、部活を創っておいてどこかに行くわけないじゃない。あ、でも。あなたが行くっていうなら、考えてもいいけど。まあありえないわよね。


「アハハ…。

 でも、あれよね。
 バンドに入らないといけないのは
 あなたの方なんじゃない?」
「へ?なんで?」
「だって、モテたいんじゃない?」
「あっ、それは確かに…。

 …じゃなくて!
 俺、あれだから。真面目だからさ。

 カノジョとかそういうの今いらないっつーか?」
「…あららー、無理しちゃって」
「いや。俺、あれだから。
 伝説待ち伝説待ち」


それは、きらめき高校でフリーの生徒がよく使う言い訳である。
卒業式に告白されるまでは誰とも付き合わないから、今はいなくても寂しくない!というようなニュアンスで言うのである。「伝説待ち」、「卒業式待ち」と。


「楽器に夢中なまま3年経って、
 その肩にかけた可愛らしい子が樹の下に
 連れてってくれたらいいわね」
「ホントそれ…。

 でも俺持ち替えするからなー。
 バリトンにもアルトにも呼ばれたらどうしよ」
「アハハ!その時は樹の下で卒業アンサンブルが
 始まるわね」
「あはは…」


さもおかしそうに腹を抱えて笑う片桐。


…取りとめのない冗談の応酬。
それが自然にできることが、片桐にとっては嬉しいのだ。高校に入る前も、部活等で男子と話すことはあったが、こんな冗談を言っても苦笑いを返されるぐらいで、アンサンブルをしてくれる人は誰もいなかった。


合奏でもそう。
「片桐さんはすごいね」と言ってもらえるのはいいが、誰も横に立って演奏しようとはしてくれない。ソロはとりあえず片桐さん、1stも片桐さん、他の人たちはみんな楽譜通り吹ければそれでいい…そんな特別扱いが常だった。


だからこの相手とめぐり合えたことが、本当に嬉しい。
彼は自分と同等、あるいはそれ以上の音を出すし、どうでもいい会話が、虹の着地点を探すくらい不毛にどんどん続く。


それが楽しくて、試すように無理な冗談を言ってしまう。
まるで格調高いアドリブを投げかけて、巧妙な連携を2人で作るかのように。


どこまで冗談として受け取ってくれるだろう。
どんな冗談で返してくるだろう。


それが面白くて、ついつい意地悪も言ってしまう。


「でも、卒業式まで誰とも付き合わないなんて、
 華の無い3年になっちゃうわね。

 赤色だけ忘れてきた美術の時間みたい」
「わかる…仕方ないから
 描こうと思ってたリンゴ、青リンゴにしよ、みたいなね…」
「じゃあ…。


 そうね。
 こういうのはどう?」
「へ?」
「…私が付き合ってあげるって言ったら」


もう何の楽器の音も無い、野球部のバットの打音などが遠くに聞けるぐらいの、静かな渡り廊下。2人きりで空気を震わせるこの場所で、直人は思わず「えっ…」と力なく漏らす。


「…なんて。ジョークよ。ジョーク」
「で、ですよねー。
 そりゃ片桐さんがカノジョだったら面白いと思うけどさぁ…」


何気ない、純粋な感想。
それを言ったはずだった。


だが、その棘の無い言葉は、片桐の放った冗談の刃を押し返して、彼女の胸に押しつけた。





……このジョークは、言っちゃいけなかった。




軽い気持ち、試すつもりの冗談で言ったはずが、刃が自分に突き刺さった。自らケガをした。


…これをジョークで言ってしまったら、もしも本気で言う時も言われちゃうじゃない。「冗談だよね、わかってる。もう騙されない」って…。


そうなったら私は、あなたの楽しい冗談に冗談で返すしかなくなる。
…ほんとの気持ちも、いえなくなる。




「あっ、っつかそろそろ帰らない?
 時間遅いし」
「……そう、ね。

 でも、ソーリー。私もうちょっとだけここに居るわ。
 だから、先に帰って」
「え?
 あ、うん…わかった。

 じゃあ、また明日…」
「ええ。see you later」


軽く手を振って、微笑する片桐。
それを一瞥してから歩き出したが、渡り廊下を後にする直前、直人は振り向いて言った。


「――片桐さんっ」
「なーに?」
「…なんか悩みあるんだったら、いつでも聞くから。

 1時間1200円で」
「…。

 ふふ。サンクス。ありがと」
「ああ。じゃあ」


言い終えると、楽器ケースと一緒の後姿が、片桐の視界から消えていく。



……優しいなぁ。


1人残った渡り廊下で、沈みかけた夕陽を背に受けて、それから…さっきの自分自身の冗談を、思いっきり後悔した。




多分、つづく

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