きらめき高校吹奏楽部 ~もしきら高に歴代ヒロインがみんな居たら~  詩織と一勝負

海の模様はまた別の機会にでも書こうと思いますすいません。

こんばんは。思ったより合宿に話数取られてしまってるのでそろそろ終わらないといけないんですけど…。5日間のできごとに何話使うんだぼくはw


急ぐとかいいながらぜんぜん進まないんで、さっさと終わらせないといけませんね。


正直いうと文化祭編を考えきれてないので練りながら今合宿を書いてます。全校集会みたいにまとまった奴が書けたらいいんですけどねー。


以下本文
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ぐるっと浜を見てまわった直人は、少し早いけれどまだ休憩時間が残っているうちに伊集院家海の家本館に戻った。


「おかえりー」
入ってすぐそこのところで、まだ八重と話していた佐倉が声をかけてくれた。それに「ただいま」と応じて、2階へと上がる。



…ちょっとでも音出しをしときたい。


直人にはその頭しかなかった。せっかく合宿に来たのだから間違ってはいないのだが、この弱小の吹奏楽部では真面目すぎるような気がする。


しかし真面目かというと単純にそうとは言えない。
責任感ゆえに焦りを感じるのなら、確かに真面目ともいえる。しかし彼の中にあるのは焦りというか、切迫感というか、そういったものだった。


次の舞台、文化祭に向けての目標は、未だ漠然としているものの、一応決まった。


…今度こそ、今の俺として舞台に上がる。


それがどういう条件を満たせば叶うのかはわからない。もう戻らない時間に思いを馳せ、中学校の頃の舞台にしがみついて次の舞台に上がれば、結局同じことを繰り返すことになる。


和泉 穂多琉との約束も、このままでは守れない。


しかし、どうすれば全校集会のように満足した舞台にすることができるだろうか。どの歯車がどれとかみ合って動けば自分が納得するのか…それがわからない以上、今の自分にできる「前に進んだ」と言える行為は、もう楽器を吹くこと以外ない。


舞台に上がる以上、楽器を吹かないわけがない。上手に越したことはない。


奇しくもその行為自体は昔からやっているものだ。
吹奏楽部である以上、どんな壁にぶつかろうが練習をして無意味なはずがない。そうした意味では、自分にとっては好都合な世界だなと直人は思っていた。



おもしろくも無い練習を何度も何度もアホみたいに繰り返しやり続けるのは俺に合ってるらしいからな。練習方法が間違っていたりレベルが低くても、とりあえず吹いておけば体に馴染むし口の筋肉だって強くなる。無意味なわけない。



そう思ってホールに戻り、楽器ケースのところまで行こうとする…。
が、ホールに入った瞬間、直人はびっくりした。


…まさか、自分以外に休憩中に練習するような奇特な奴がいるなんて。


先客は直人と同じように、今まさに楽器ケースを手にとろうとしているところだった。


「あっ」

向こうがそう声を上げるので、直人も「よぉ」と声を返す。
直人より先にホールに来ていたのは、隣の家の女の子である藤崎 詩織。またこんなところで珍しい人と2人っきりになったなぁ、と直人は少し苦笑する。


中学時代は殆ど話さなかったのに。
きら高入ってからこういうシチュエーション、本当に増えた気がするな。



…それから歩いていって、自分もテナーサックスのケースを手にとり、床に倒して開く。黄金の楽器が照明を反射させて、夕方の川みたいにキラキラ輝いた。


「……泳がないの?」

直人は楽器を手にとりながら、最近になってよく会話をするようになった幼馴染の背中にそう声をかける。ケースに対峙した直人から見て、5mほど離れたところで同じようにケースに向かう詩織の姿が見える。


「泳いだわよ。
 でも、なんだか疲れちゃったから、戻ってきたの」
「そっか」
「直人君こそ、泳がないの?」
「水着自体持ってないし。
 っつってもある程度遊んだからもういいかなって」
「ふーん。そうなんだ」


話しながら、なかなか立ち上がらない詩織を見て、直人は気になった。あいつ、何してんだろ。フルートなんてものの10秒もあれば組み立てられるだろうに。


気になったので体を傾けてよく見ると、詩織はフルートを磨いているらしかった。シルバークロスでキイを刺激しないように丁寧に磨いているのが少し見える。


…あいつ、手ぇ小さかったもんな、昔は。
音楽の時間かなんかの時、指広げてもピアノの1オクターブ分まで広がらなくて泣きそうになってたっけ。


あの頃よりもっと小さい時なら、手を繋いだことさえあるんだけどな。
…今はどうなんだろ。さすがにもう大きくなって、ピアノの1オクターブくらい余裕で跨げるのかな。


「…手入れ?」
「うん。合宿中は、吹く時間も多いでしょう?
 だから、しっかり手入れしてあげる時間も必要だと思って…」
「ああ、なんか納得。
 

 んー、俺も磨いとこっかな。
 合宿入ってから全然磨いてないし」
「いいと思うわよ。

 私たちだって毎日お風呂に入るんだから、
 きっと楽器も嬉しいと思うわ」


どうせ休憩もあと30分くらいだ。
それからは夕食があってから今日の締めの合奏となる。手入れをするなら今のうちかもしれない。


予定を変更し、直人もラッカーポリッシュをラッカークロスにかけて、楽器を磨きはじめる。ベル周りを磨き、ネック部分を磨き…その間、直人も詩織も何も言葉を発さなかった。


他愛も無い会話をしようと思えばできただろう。
だが、2人はこの前のコンクール以来、会話をしていない。


――次の舞台も頑張ろうね。


家に入る直前、詩織は直人にそう言った。冷静になってあの時を思い返してみると、詩織は直人が落ち込んでいたのを看破していたようにも思える。それで何とか気を遣って次の舞台がある、と声をかけてくれたとしたら、直人としてはかける言葉もなかった。


そうして5分、10分…無言のまま時間は過ぎ、直人が楽器を磨くのをやめてタンポ裏の手入れに移った時。


「直人君」

急に詩織が声を発し、彼の名前を呼んだ。


「ん?なに?」

少し驚いたが、直人が応じる。しかし彼が応じたにも関わらず、詩織は言葉をすぐには繋がなかった。


「……」

また沈黙が流れ、そのまま5秒くらい経った。


「ねえ…今の目標って、ある?」


急に何を言い出すのか。詩織がそう聞いてくるのに、直人は少し首をかしげる。


「なに?いきなり」
「文化祭までは少しあるじゃない。
 だから、基礎ばかりだけどしっかりとした
 目標を持って練習したいでしょう?

 それで、聞いてみたかったの。
 直人君は、どんな目標を持って練習してるのかな、って…」


…俺の目標?

なぜか、言われてすぐに直人の頭に浮かんだのは、中学時代の同級生である和泉 穂多琉の顔だった。


…いや、それは当面の目標じゃない。情け無いけど…今の俺にとってあいつとの約束は、夢みたいなものだ。かなえたくて、かなえられる可能性はゼロじゃないけど遠くて…そういうもんだ。


「…微妙にかっこいいこと言っていい?」
「えっ?…ふふ、どうぞ」
「それ見つけんのが、今の俺の目標」


なんか勘違いな名言ぽい気もするけど。


「…俺、こないだのコンクールで
 色々わかんなくなったんだよね」
「うん…」
「全校集会ん時はわかった気がしたんだけどなー…。


 ……。



 今までは、一生懸命練習すれば必ず物になると思ってた。

 でも、それはここじゃ通用しない。
 中学ん時は先生が、できてないとこをどんどん指摘してきたし、
 仲間内でもすっげー注意しあってた。


 だから、自分で考えなくてもやるべきことがどんどん楽譜にメモされて
 いって、それを守るために無心で練習していけばよかった。

 
 けどさ…それって考えてみたら、今まで俺、一生懸命やってたつもりが
 やらされてたようなもんじゃん。俺のやりたい音楽とか、
 俺らしい音楽とか…そういうの全部貰い物でさ。

 
 …羨ましいよ。片桐さんとか、渡瀬とか、詩織とか…。
 みんな自分の音楽があって」


これまで、自分の中でやりたい音楽がなかったわけではない。だがそれは、先輩や先生に指示された音楽をできるようにした結果、自分の中に根付いたものでしかない。本当に自分がやりたい音楽がいったいなんなのか…そんなものを一から考え出すと、まったくもってキリがない。


片桐や渡瀬のように貰い物でない音楽を持つ者を見ると、自分のレベルが低く思えて仕方が無い。独自の音楽…そんなものがあれば、和泉との約束も今頃守れただろうが…。


「そんな…そんなことないわよ。
 直人君には、直人君の歌い方があるじゃない」
「山に向かって自然に攻めてくのなんて誰でもできるよ。
 
 何年も楽器やってんのにこんな基本の吹き方しか
 できないなんて、なんつうか情け無いよ」


…あれ、何で俺、こんなぶっちゃけてんだろ。
都子にだってこんな弱音あんまり言わないのに、よりによってなんで詩織にこんなこと言っちゃってるわけ…?



短い時間の中で自分の発言に後悔したが、もう遅かった。声になった言葉はもう口の中に戻ってきたりはしない。どうして、よりにもよって一番余計な心配をかけたくないような相手の1人にこんなことを言ってしまったのか、自分でもよくわからなかった。


「情けなくなんかないわよ。
 
 直人君は持ち替えて色んな人を教えてるし、
 あなたにはあなたの吹き方がちゃんとあるじゃない。

 
 私、直人君は「何か」持ってるってちゃんとわかってるわよ」
「何も持ってないって」
「持ってるわよ。
 あなたの音、小学校の頃から私はよく知ってるもの」


…俺が何かを持ってる?


いや持ってねーだろ…。
持ってるのはみんなの方だって。


明らかに才能ある片桐さん。すげー料理の得意な虹野や一文字さん。ものすごいエネルギーの持ち主の渡井。研究熱心で毎日試行錯誤を怠らない語堂さん。桁外れのパワーを持ってる赤井さん。他にもいっぱい、個性がある人たちがこの部にはたくさんいる。


そういうのはみんな、少なからず音に影響を及ぼしてる。
けど俺は何しても中途半端だし、ふつーだし、何も持ってなんか…。


「いや、とてもそうは思えないけど…」
「…。
 それじゃあ、勝負してみる?」
「えっ?」


突然何を言い出すんだ。


驚いて直人が詩織の方を向くと、目が合った。向こうの方も、直人の方に向き直っていた。表情は、なぜか微笑を浮かべていた。


「い、いきなり何。
 勝負ってなんだよ」
「ロングトーン。
 どっちが長く伸ばせるか、勝負しましょうよ」


なんでいきなりそんなことになるんだ。
それで俺が何を持ってるかはっきりするとかいうわけ?


「や、やだよ。なんでそんな…」
「いいじゃない。ね?やりましょうよ」


言うと詩織は、既に組み立てた楽器を手に、いつも合奏で華澄先生が使うハーモニーディレクターを起動し、内臓されている電子メトロノームをテンポ60で鳴らし始める。


「……。わかったよ。

 どっちが長く伸ばせるか?そんだけ?」
「そうよ。
 ちゃんと、本気でやってね」
「…。
 本気、ね。

 わかった」


手入れしていたテナーサックスをケースの上で立て、マウスピースを繋いだネックと接続する。それから首にかけたストラップと本体を繋ぎ、立ち上がる。




――その様子を、密かにホールのドアの影から見ている者達がいた。


「ど、どうなっちゃうんだろう」
「さ、さぁ」

早めに戻ってきた大倉 都子と陽ノ下 光。一緒に遊んでいた虹野は、一階の佐倉のところにいるのだが、先に上がってきた2人はホールに入ろうとして面喰らった。


ちょうど入ろうとした時、

「どっちが長く伸ばせるか、勝負しましょうよ」

と詩織が述べているところだったので、光も都子もホールに入れる空気ではなくなってしまった。


ドアから中をうかがうと、2人は10mほどの間隔で向かい合って楽器を持っている。その雰囲気は、メトロノームが沈黙を埋めているにも関わらず、なぜか重苦しい。2人ともこの部活ではソロ(ソリ)パートを勤めたエース級だ。その2人が集中して楽器を手にすれば、空気が引き締まってもおかしくはない。


「ね、ねえ」
「何?光ちゃん」
「…直人君と詩織ちゃんって、どっちが上手いの?」


小さい声でそう聞いてくる光に、都子はどちらとも答えられそうになかった。ただ、お互いに優位なところはいくつか差があるように思う。


「詩織ちゃんの方が早い指回しでも歌える気がするような…。
 あっでも直人の方が音は大きい気が…。

 でも、楽器の違いもあるし、なんともいえないわよね。
 …純粋にどっちが上手いなんて決められないわ…」


それを聞いてなおさら息を呑んで2人の勝負の行方を伺う光。


「…それじゃあ、「1」の合図で吹き始めるわね」
「りょうかいりょうかい」


お互い楽器を構える。
B♭を吹く運指を押さえて、長く同じ質を保った音を吹くために神経を研ぎ澄ます。直人も詩織も、目を閉じて集中した。


「いち」

合図が来た。予備拍の3拍をすべてブレスにつぎ込んで、mpの音量でB♭を吹き込む。



1、2、3、4、5、6、7…拍数が進んでも、2人とも音を揺らすことなく同じ太さと同じ質の音を出し続けられた。さすがだなぁ、と光がドアの影で感心する。


8、9、10…それでも揺れない。キーボードの音じゃないかというくらい寸分の狂いも無いまっすぐな音が2本、流れ続けた。


11、12…さすがにフルートの音がやや揺れた。
いや、小さくなったか。揺れた、と思ったその点を境に、mpがpに落ちた。


13、14、15、…まだ続く。いったいいつになったら終わるのか。都子も光も何も喋らずにその行く末を


16、17…。


「……。

 俺の負けだ」


テナーサックスだけが吹くのをやめた。

本体からネックを抜き、ケースにそれらをしまうと、彼は詩織とすれ違い様にこう言った。


「ほら。別に何も持ってなんかないよ」

ややスネたようにそう言った彼は、扉の影に隠れていた光や都子にも気付かないままホールを後にして、廊下へと出ていった。



「都子ちゃん…。
 直人君、負けちゃったね」
「そうね…」


しかし、都子は2人の勝負を聞いていて、妙な感じがしたのだった。詩織の音は確かに減衰したのがわかった。だが、直人は最後まで音が小さくなることなく吹いていたにも関わらず、突然吹くのをやめたようだった。



…もしかしてあいつ、ロングトーンの勝負だから長く吹くだけじゃなくて質とか音程とか色んなものに拘ってたんじゃないかしら。だからピアノに音量を絞らずに最後までメゾピアノで吹いてそれで…。


「……」

遠ざかっていく直人の後ろ姿を見ながら、詩織も都子と同じようなことを考えていた。


私は12拍の時点で音が弱くなった。でも彼は最後までずっと同じように吹き続けてた。昔からずっと積み重ねてきたロングトーンの勝負っていう意味なら、私の負けだった…。


やっぱり、あなたはちゃんと持ってるわよ。


そう思った詩織の視線の先で、彼は歩きながら小さく「ちっ」と苦々しく口にし、密かに思った。


…言われた通り、ちゃんと本気でやったんだけどな…。



多分、つづく
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