きらめき高校吹奏楽部 ~もしきら高に歴代ヒロインがみんな居たら~    アルバムをめくるように

いつの間にやら370話。


こんばんは。最近思うんですが、やっぱ初代ときめきのキャラが一番好きだなとしみじみ思います。サムネが進化してる後続シリーズの方がグラはいいんですが、性格や味付けの濃さの按配がなんかツボなんですよね。


彩のラブソングやったせいか未だに片桐さんにぐっと来てるし…ああ、彩ラブのストーリーかなり強引だしそもそもオリキャラがいないとぜんぜん成り立たないし音楽やってた自分から見てもかなり無理がある設定や展開多かったしでかなりメルヘンな内容だったのに、片桐さんってだけでめちゃくちゃいい 笑


やっぱドラマシリーズにせよクイズにせよ、本編以外でひとりの女の子をフィーチャーしてるときめきの派生ゲーはええっすね。下校時に色んな話できて呼び方変えれるとかめちゃすげーじゃん!


ほんでさ・ら・に!この小説書いて色んな子に気の向くまま話しかける、と 笑

ああなんか最初の頃は気の向くまま色んな子に話しかけてたけど、最近展開がハードやからなぁ。もし二年生になれたらまたゆっくりしたいけど、なんか書いてみようかな。直人君目線でひたすら昼休みとか放課後に色んな教室行ったりして女の子狩りまくる話ww


以下本文
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他の部活がいつも通りの活動をする中、ただひとつ異様な空気に包まれた、音楽室付近の吹奏楽部。行っていいのか、行ってはいけないのか、戸惑って動けなくなる部員の姿は、何か大河を群れで挟んで渡るか否か迷うバッファローの群れのように見えなくもないか。


ただ、バッファローに比喩するには、華奢で可憐すぎる文化部の女の子たちも、それぞれ戸惑って、不安げな顔をしている者も居れば、真顔で辺りを見回し、周囲の出方を伺って自分の身の置き方を探っている者も居る。


一方で、すでに河を渡った2人は、2人きりの音楽室の中、一旦は置き去りにしていた楽器を手にして座り、どちらともなく話しかけ、会話していた。


「ねぇ、こうしてると、思い出さない?」
「最初の方のこと?」
「ザッツライト、さすがね。


 最初はこんな風に、音を出していいのかも
 迷うくらい静かな音楽室だったわ」
「そっから白雪さんとか、俺とかが入ってって…」
「チャラいあなたが他の子誘って、
 今みたいになっていったのよね」
「ちょ、そんな俺いうほどチャラくないっしょぉ。


 それこないだ中学の後輩にも言われてさぁ、
 さりげに結構ショックだったんだけど。


 先輩、チャラいしゃべり方になりましたねーって」
「ふふ。でもその通りじゃない」


海浜公園のベンチみたく、近い席で話す2人。
この声を楽器の音に交換したものが、全校集会のSoliの練習だった。片桐の時折混ぜるアドリブに、当意即妙で答えるべく、直人は持ち合わせの無い才能やセンスと違う、あらかじめ練って準備してきたフレーズで勝負したものだ。


――そこに、足音。


彼らが話を止めて入り口に目をやる。すると、音楽室にアンサンブルコンテストのメンバーが揃っていた。彼女らは少しも迷い無く自分たちの席に戻ってきて、ちょっと恥ずかしそうに、光からその気持ちの程を述べていく。


「…初詣の時にさ。
 がんばるって決めたから。

 
 ちゃんとあの時のリベンジしなきゃ、
 絶対…終われないよ!」 
「……。


 うん」


音も気持ちも走っている、気合の入った不敵な笑顔。
さすがは元運動部といった感じの、根性も元気もガッツもある風情に、生粋の文化部少年は何度も頷いて、彼女の決意を受け止めた。


また、今はひとりサックスの集まりから離れて座る語堂も、直人らにちょっと皮肉を交えながら、サックスの集まりに一度訪れてから、自分の席へ向かった。


「まっ、4月に後輩入ってくる前だからさ、
 今が文芸部に移る最後のチャンスとは思ったんだけど。


 せっかく誰かさんが律儀に約束ちゃんと守ってくれたんだし。
 もう最後まで付き合うわよ。あんたたちに」
「そっか。
 たまにはしとくもんだね、約束も」
「ば、ばか。
 
 そりゃあんたが誰と約束しようが勝手だけど、
 守れるやつだけにしときなさいよ?」
「いやいや、約束なんて。
 
 守るつもりでしかしないっすよ」
「ふん、どうだか」


冗談と微笑を置き土産に、サックスの集まりから立ち去っていく、直人の元バイト先の、実家の長女。それを直人も片桐も目で追ったのだが、光の目線だけは、不意にお隣の幼馴染に向いてしまった。



――あの約束のために遠い高校を選んだのよ!?

――…まあ、やる気なさそうにしてっけど。全然守る気はあるから。約束。



…和泉さんとの約束も、そうなんだよね…?
いっつも朝から晩まで暇があれば楽器吹いて、学校来る時も帰る時も、いっつも楽器と一緒でさ。こんなにがんばってるのに、仲直りできてないなんて…。


…でも、もし。
もしも仲直りできたら、直人君…どうするんだろう。前に君が「賞だけが大事な吹部なんて、辛いだろ」って言ってたけど、君にとって大事な約束がもしも守れたら…どこに行っちゃうんだろう。



ベルを太股に引っ掛けて持つテナーと、スタンドに立てたソプラノサックス、それに囲まれる魔法使い。彼を見て、光は何か、先ほど見せたやる気とは対極の影を感じて、唇を噛んだ。坂城 匠の言う「爆弾」は、まだ消えてはいないらしい。


そのサックスパート揃い踏みの音楽室に、次はトランペットの3人が入ってきた。やる気満々、出勤のタイムカードはすでに押してますと言わんばかりの2人と、それに流されてしまった歩合制の情報屋さん。


「さっすが。決断早いね」
「まあね、にゃはは…。
 
 中途半端にしていいこととだめなことがあるって  
 前にバイトで教わってさあ。
 「これ」は、しちゃだめな方だと思うんだよね。

  
 それに、あたしたちまだ、聞いてもらいたい人に
 聞いてもらえてないからさぁ、ねっ?」
「うんうん、お兄ちゃんが来てくれるまでは
 ぜったいぜったい頑張るって決めてるんだ、ボク!

 
 がんばろうね!かずみ!」
「がってん!ファイトーっ!」
「ファイトー!」 
「ファイトー」 


ちょっと棒読みの気味のファイトに、声が小さい、と言われてしまう匠。苦笑気味にやり直しに応じた彼は、みんなで席に向かう途中、男友達のところを敢えて通り、声をかけた。


「よっ。
 俺はまあ途中で抜けちゃっても
 ぜんぜんよかったんだけどさ。
 

 2人ともやるのが当たり前って空気で、
 結局俺も流されちゃって」
「冷めてんなぁ。
 お前もあの2人見習って気合入れたら?」
「声張ったりするの、ガラじゃないんだよね。
 
 …なんて。
 まあ実はいうと、ちょっと張り切ってたりするけどさ」
「え?」
「俺の本業、思い出してよ。

 俺はお前のクラスの隣の席に居るちゃらんぽらんと違って、
 きらめき市のお店のどういうところが美味しいとか、
 どこの店員さんがけっこう美人とか、
 あと…どこのオーナーさんが元きら高吹奏楽部の
 娘さんが居るとか。
 

 結構知ってるんだよね」 
「じゃあ、それ…」
「ああ。広告・協賛金集めに使えるだろ。
 この情報、誰かさんや誰かさんに買ってもらえたら
 なかなかいいビジネスになるんじゃないかなーって。


 えへへ。思ってるとこ。 
 じゃね」

 
…その張り切ってるは、どっちに、なんだろ…。

    
本業か、それとも部活か。
その真意は、彼の笑みが天使か悪魔かわかる人でも居ない限り、わからないだろう。もちろん、小声でこんな話をした直人にも。


さて、流れが止まる。まさかこれ以外のメンバーは、本格的な定期演奏会を創ることに、不安や諦めの念を感じているというのか。


…あいつ、朝、やる気とか言ってた割に…。


ポニーテールの幼馴染がなかなか出てこないことに、そんなことを考えた直人の目に彼女が映ったのは、それからすぐのことだった。


「なかなか入ってこないから。

 まさかのびびった?とか思ったじゃん」
「ごめんごめん。
 ホルンのみんなで、色々再確認してたの。それで」


人数が少ないのもあるが、さすがにチームワークのいいホルンの3人は、それぞれ少し照れくさそうに微笑して、都子の「ね?」にうなずく。そういえばこの人たちがケンカや対立をしているところなど、殆ど無い。そのため、ユーフォニアムと同じ段であることもあって、実に平和な中音域がきらめき高校 吹奏楽部にできているのである。


「…私たちは、みんなに比べたら演奏も下手っぴだし、
 広告・協賛金集めだって、力になれるかわからないけど…。
 

 でも、なんていうか、その…。
 こういう言い方はおかしいけど、
 応援したいなって思う人がこの部にはいっぱい居るの」
 

言葉を真剣に選んでおきながら、「あっ、これじゃ私、他人事みたいよね、そ、そういう意味じゃなくて…」と言い淀んでしまう虹野のバトンを、今度は佐倉が受け継いで、迷いながら続ける。


「私も、虹野さんといっしょ。

 指の早い楽器とか、
 後ろから聞こえる大っきいトランペットとか、
 いっつもみんなすごいなぁって思いながら聞くんだけど、
 そんなみんなといっしょに頑張れるのがすごく嬉しいの。 

 
 きっとね?
 あのまま野球部のマネージャーをしてたら、
 ぜったい私、困ったと思うモン。


 …私はどんなに応援しても、みんなと一緒に
 球を追いかけたりできなくて、
 力になれてるかわからなくて、悔しいなって」
「うん、ほんとにそう。
 男の子に生まれてたらって、思っちゃうわよね」
「うんうんっ」


…頑張ってる人、応援するのが好き、かぁ。
でも、この人らがマネージャーのままだったら、絶対いいマネージャーさんなってただろうな。…ごめんね、田中。


悪いなと思いながらも、元運動部のアイドル2枚看板にうさぎさんを添えた贅沢な図を眺めて、愛機のオクターブキーをカチカチ押しつつ苦笑。そんな彼も、2人を巡って野球部たちに散々追いかけまわされた記憶があるわけで、さすがにこの贅沢な光景を見るのには、それなりの苦労が伴うなとか、変なことも考えてしまう。


「だから演奏はもちろんのこと、
 あたしたちにしかできないことも、
 何かできたらなって思うの」


3人とも、人の栄養管理にまで口と手を出すほどの世話焼きだ。きっと吹奏楽部の中でも、マネージャー…というよりプレイングマネージャーのように振る舞う場面がこれからも見られることだろう。 


そんな近い未来を思わせる都子の発言に、直人はなぜか、頼もしさや嬉しさ以外のものも、感じてしまった。


…自分たちにしかできないこと、か。
そう、きら高にはそういう個性的っていうか、オンリーワン的な人らがいっぱい居る。だから俺も色々考えさせられたし、詩織にいわれたんだと思う。俺は何か持ってるって。


でも…俺には何ができる?
俺にしかできないことって、何かあるか…?



そこまで考えて、ふと目が合った、Soliのお相手。「何か?」と首をかしげてくる片桐に、彼は「なんでもない」と苦笑を返して、視線を古めかしいラッカーの管体に落とす。



…そんなもんあるわけない。
ちょっと前の俺ならそう思ってた。何もできないから、和泉を傷つけた。約束も守れなくて、2回も。


でも…当たり前のようにできることだけやってきたはずの俺が、いつの間にかどこかで魔法をかけてたってことも、あるのかもしれない。そんな気がしてるのは、昨日片桐さんと話した時のこと、よっぽど嬉しかったからかな…。




先週、野咲 すみれが初対面で彼に抱いた印象のように、どこまでも高見 直人という人は、「ごくありふれた若者」という言葉が馴染んでいる。


そこそこに髪や眉に気を配っているけれど、かつて鏡 魅羅が言ったように顔も「並の上」で、話せば軽い口調で若者言葉がぽんぽん飛び出し、勉強も運動も並か下手をすれば苦手科目などは悪い方、クラスでもよく好雄をはじめとした男子たちと、これがいかにも高校生活の雑踏ですといわんばかりの雰囲気を作る、エキストラを名演しているものだ。


そんな彼が、きらめき高校に通う数多の「かわいい」「美人」などではくくりきれない魅力的な女子たちの心や言動に一石を投じられたのかというと、むしろ彼が影響を受けたという方が正しいだろう。


しかし、彼が無理やりにでも引っ張らなければ、他の文化部なり運動部なりに散り散りになっていた子も数多い。退学していたかもしれない人も居る。過去の清算も果たせなかったかもしれない先輩も居る。


まさにこの部のメンバーは、彼のこの1年やってきたことを表す、生きたアルバムのようだ。そしてこの音楽室に数人ずつ部員が入ってくる様は、そのアルバムをめくるようなものなのである。


アルバムをめくる手は止まることもあったが、それからも音楽室側に部員は流れていった。ひとりしか居ないオーボエ、読むものを本から楽譜に変えたもうひとりの読書少女、放送部と兼部しているきらめき高校のお耳の恋人、ユーフォの大和撫子の方々…。


そしてクラリネットの一家が話し合いの末に意思を固めて揃い踏みすると、もう半数以上が音楽室に集まったこととなった。が、こう絞られて来ると、未だ入ってこないメンバーの心情が、ただの揺れや迷いではないのではないかと、音楽室側の人間には思えてしまう。



…八重さん…どうしたのかなぁ。


何かの代わりとばかりにホルンを抱く手が少し強くなってしまった佐倉の表情が、カーブした管体に写りこんで、不安げにぐにゃりとゆがむ。が、まもなくそれがぱっとほころんで、思わずホルンを落としそうになってしまった。


「あっ、い、いけなーい!
 あ、あぶなかったー…」
「だ、だいじょぶ!?」
「え、えへへ。セーフセーフ。
 落としてないよ」
「えっ?どうしたの?」
「な、なんでもない!

 ただ、八重さんを見たら、なんか安心しちゃったの、
 それで…なんだか力が抜けちゃって」


突然の声に視線を集めたホルンの3人がそう話すのを横目でちらりと一瞥しつつ、相沢 ちとせと入ってきた、八重 花桜梨。せっかくの長身を猫背で小さくして歩いてきた彼女は、同級生の何気ないやりとりを見ながら、複雑な心境を心中でこう綴る。


…あんな風に自然に誰かと話をするのも、本当は「年上」というのがつっかかって、なんだか後ろめたい…。そう思ってしまうのは、もしかしたら前進、なのかな…。



奇妙にそう思うのは、かつての自分を振り返ればこそのこと。


…春ごろの私なら、あんなやりとりを見ても、もっとひねくれたことを思ってたと思う。たとえば、そう…。あんなやりとりを楽しそうにしている彼女たちだって、いざとなったら友達だって平気で裏切るし、その瞬間がくればみんな知る、こんな時間が偽りのメッキで覆われた嘘の楽しさだって…とか。


…誰も信じちゃいけない。ううん、誰も信じられない。
そう、心に固く決めていたはず。でも…。



次に思う浮かぶ、先ほどの音楽準備室での、相沢との会話。


「んー、なんやややこしい話になってしもたわぁ」
「…でも、この流れにしたの、相沢さん…だよね」
「それは言わんといてぇなぁ。

 …ほんで、どないする?
 この吹部いちキュートでチャーミングな
 トロンボーンコンビがいてへんかったら
 みんな泣いて困るやろなぁ」
「……そうかな」 
「せやて!
 みんなウチが留学いっとった間、
 さびしー!ちとせロスやー!いうて泣いてはったやろ?」
「……。
 …そうでも、ないかな」
「ぐはっ!
 ウソでもホンマのこと言わんといてほしかったわ…」 
 
 
周りでは結構真剣なトーンで話しているパートもあったのに、そんなテンションで泣きまねをしていた相沢。思えば「うるさい人」だと思っていたこの人の平常のテンションが、今の八重にとっては「ありがたい」と思うことさえあるのだから、未来というものは近いものでもそうそう見通すことなどできないのかもしれない、と思えてしまう。


「……あの。

 昨日は、ありがとう…」
「へ?何よぉ急に」
「…私があの人と話してて困ってたから、
 話の流れを曲げて、助けてくれたんだよね…。


 だから…」
「んー、まぁついでやったからそんなん思わんでええよ。
 いつ言おう、いつ言おうって思てたとこやったし。


 ウチな、昔からいらんことばっかり言うてまうんよ。
 思たことぱーんてすぐ口に出してしまいよんねんな。
 それがあの時我慢できへんようになっただけ…
 っちゅう感じかなぁ。

  
 …あっ、せや。
 ついでついでで申し訳ないねんけど、
 もうひとつ、いらんこと言うてええ?」
「……。

 ……う、うん…」


自分のこめかみにひとさし指をやって、申し訳なさそうに、いかにも言いにくいことを言うようにして話し始めた訛りの強い短髪の子。その「いらんこと」は、決して八重にとって、辛い言葉などではなかった。



「なんや言うとったやん、会計がどうのとか、
 広告協賛金取りがどうのー、とか。


 ホンマの吹奏楽部やったら先生がノルマ出して
 ひとりアタマなんぼ集めなアカン、いうて
 言わはんねんて。しんどい話やわ。


 せやけどその、な?
 昔八重さんに何があったんかとかわからへんから、
 ホンマにいらんことかもしれへんけど…。


 お店とかに行ってそういうお願いするのとか、
 ようせえへんというか、苦手やろ…?  


 せやからその会計係とかで済むんやったら、
 八重さんがやったらええんちゃうかなぁって
 ウチも思ったよ。

 
 だって八重さん、いっつも何も言わんでも
 ちゃんとすることしてるやん、
 ウチの椅子やら譜面台出してくれてたり、 
 何も打ち合わせしてへんのに息吸う場所ずらしてくれるし、
 ええ仕事するなーっちゅう時ようけあるもん」


顔ごと視線を逸らし、目を伏せ、唇を噛んでそれを聞いた八重。それは、かつてサックス吹きのチャラい男子が、自室にお見舞いに来てくれた彼女に見出した、ブランクまみれの喜怒哀楽だった。


「あれやったらウチが八重さんの分まで
 集めてきたるし、ていうかウチがそんな
 広告集めとかやってしもたらぎょうさん集まりすぎて
 困るかもしれへんし?あはは。


 せやからどっちにしたって
 ウチらが取ってきた血の出るようなお金を
 安心して任せられるような人が居てた方がぜったいええしな。


 八重さんさえよかったら…やったってーな。アカンかな…?」
「……。

 
 私……。


 …あの」
「ん…?」
「…もしもの話だけど……。 


 もし、私が会計係をやって、その管理してるお金がなくなったら…。


 相沢さんは、私を…信じてくれる…?」
「そんなん当たり前やん!
   
 まあでもホンマに会計係やるって決まったわけやないんやし、
 そんな気ぃ張らんでええて。
 
 
 …ほな、そうと決まればLet,s go!
 ホルンのデコちゃんも心配してるんちゃうん、
 あんたが居てへんかったら」
「……。
 …うん……」


…みんな人間なんて、他人には無関心。
いざとなったら自分が助かる道を選ぶくせに、都合の良い感謝や絆を口にして、平気で誰かを傷つけて、それで…。



そんなことを思っていたのは、決して悲劇のヒロインぶっていたからではないし、悪ぶっていたわけでもない。本心から自分以外の人間を、草陰からネコが見ているのと同じ目で見ていたのだ。


そんな自分が、自分を信じてるかどうか人に尋ねている。
自分にとってそのような問いは意味がないはずだし、「はい」でも「いいえ」でも興味がなかったはずだ。


だのに、「当たり前やん!」と力強く即答されて、「うん」とうなずいている自分が居る。



…これは、いいことなのかな。
もし、またあの時と同じことが起きたら…もう二度と、日向に出ることはないと思うけど。


それでも、そんな痛みを覚悟してまで…私は、前に…舞台に、出たいのかな…。どっちなんだろう…。部屋にこもりきりだった時は、あんなにも自分の声だけが聞こえていたのに。なのに…どうしてかな。最近は…考えたくもなかったはずの、他人の声が、頭の中で何度も自分に問いかけてくる。



――八重さんっ。えへへ。お弁当今日も作ってきたよ。食べようね。



――八重さんの一定でかっちりしたビート、ずっと聞こえてたよ。マジ支えられた。ありがとね。



――なんやぁ、しばらく見いへんから死んでもうたんか思たやん。ウソウソ!



――ヤエさん、ほんとうに ありがとう ございました。




……嫌で、嫌で、嫌で、嫌で…仕方が無くて。

…誰かの声が頭の中でするのが辛くてしょうがなくて、自分の声で、かき消してたのに。…なのに今、ふとした時に思い出すのは、誰かの声。…ひとりきりの時思い出していた、トロンボーンの音の代わりみたいに。





ちらりと見やった、トロンボーンのロッカー。
その後で、先んじて音楽室に向かった相沢を見てから八重は、誰にも見えないため息をついて、目を閉じた。そうして再び目を開けた時には、つま先はもう同級生を追っていた。



そんな短いやりとりを断片的に思い出して自分の席に行こうとした時、通りすがら、同音域を担当することの多いサックスの男子と、目が合った。


彼は気さくに手を軽く挙げて、「またよろしく」とでも言っているかのようにわずか微笑んできた。その笑みと動作に八重は何も返すことができず、目を伏せ、困ったようにぎゅっと閉じた唇を曲げて、息を漏らすばかり。その不発の微笑に気付いて、直人もまた、ホルンを落としかけた女子に目をやる。


…よかったね。八重さん、ちゃんと来てくれて。

…うん、うんっ。ほんとによかったぁ…。


言葉はなかったが、目が合うと、お互いにそんな声が聞こえてきそうだった。が、もう一人、入ってこない部員を思うと、直人の安堵の笑みも、前を向いて「宝島」の楽譜がおかれた譜面台を見た時には、もうかすれて消えてしまった。


「入ってこないな……」
「え?」
「…美樹原さん」


今まさに打楽器の3人までもが入ってきたというのに、同じ中学で修羅場を乗り越えてきた仲間が帰ってこない。夏場に話した悪夢のことも思い出されて、彼はついに楽器を置き、立ち上がった。


「十一夜さんとかもまだだしなぁ…。
 ちょっと行ってくる」
「う、うん」


光にそう告げて立った彼が顔をしかめていたのは、やや思いつめる癖のある同級生の心情を案じているからに、他ならない。なぜなら自分も、同じ悪夢を見ることがあり、その辛さが、よくわかるのだから。 



多分、つづく






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