RUNE2 コルテン鍵の秘密 の小説らしきものが書きたい! 決別編
最後の決戦となりました。
このシーンは何度も妄想したものの、まさかこんな早くに書くことになるなんて…w
私にとって、12/4は大事な日です。昨年のあの日が転機でした。だから、4日までに、RUNE2を書いてしまいたいです。まあうまく書けるかはわかりませんが。
さあ、最後の戦いですね。前回のあの窮地からリズがどうなるか、是非ご覧いただきたいところです。
では、自己満足に向けて、筆を進めましょうかね。
以下本文
――――――――――――――――――――――――――――
あれ、どうしたんだろう。
どこだ?ここ。
どうなったんだ?あたしは…。
辺りを見回す。
てか、これ目ぇ開いてんのか?どこ見ても暗くて何も見えねぇよ…。
だんだん恐くなってきて、走った。どこへともなく、まっすぐに。どこへ行けばいいかわからなくて、ひたすらに走った。と、手が何かに触れる。壁。白い壁。
それは、見覚えのある色と手触り。
「これは…なんでこんなところに…」
それは、ガディスの街の門。あの頃、オランジュの王室から捨てられて、行く宛ても無くて寄りかかって座っていた門。
それに気付いたと同時に、心の中に恐怖が入り込んできた。
この暗闇が、これからの未来が、あたしは恐いんだ…。この闇の中で、あたしは一人…。
リズはゆっくりと門に背中をもたれかけて、そして、座り込んだ。そして、背中に手を当てる。その時彼女はようやく気付いたのだった。
「…!?無い、鍵が、ない!?」
母から託された鍵は、今はリズの背中についていなかった。腰のバックルにも、カードケースはついていない。ポーチをまさぐると、砕け散った「魂を肉体に封じ込める石」があった。
…もう、彼女と誰かの関わりは、何もなかった。
「恐い…恐いよ」
彼女を救う何かも、他者も存在しない闇の中で、彼女はうずくまって、ただ震えた…。
…蒼空の下、少女の抜け殻を捕まえて放さない神は、勝利の余韻に、失望を禁じえなかった。
「―やはり、戦いは無駄だ。
鍵があったとしても、人間は
何も変えられない」
ため息をつくように調和の神はその言葉を吐き出した。遠くを見つめるような目線で、白い目は何かを見ていた。はたまた、思い出しているのかもしれない。
アーガイルにおける、これまでの人間の戦いの歴史を…そしてそれを過ちの歴史であると、忌み嫌っているのだろうか。
その思考は、あまりにも超越した存在であるが故に、誰にも計り知れなかった。
「そんなことねぇ!」
ふと、声が調和の神の顔面を殴りつけた。神は嫌悪感に眉間を歪ませ、生意気な声に気付いて視線を声源に向ける。そこにはうなだれ、ぴくりとも動かなくなった少女の肩にとまる雛の異形の姿があった。
彼は涙を流し、声を荒げて小さな体で必死に何かを訴えようとしていた。
「―異形のくせに、人間の肩を持つのか」
「んなこたぁ、この際関係ねぇ!
お前!リズをナメてんじゃねぇぞ!
リズはな、いつだって自分の足で歩いて、
自分の運命を精一杯生きてきた!
異形の力とか、鍵の力とかそんなことは
問題じゃない!
オレは、リズを信じてる!また、いつもみたいに
立ち上がってくる!そうに違いないってオレぁ、
わかるんだ!」
笑止。小さな異形のくせに何を言うか。神は必死に訴える幼鳥を冷笑し、吐き捨てるように言った。
「―だが、もうこの娘の魂は肉体を離れた。
もう甦ることはない!」
「いいや!んなこたぁ無ぇ!
リズは、いつだって乗り越えてきた。
これまでもそうだったんだ。
これからだってそうに決まってる!
そうだろリズ!返事してくれよ!
なあ!リズ!」
幼鳥の異形の必死な呼びかけも虚しく、少女はうなだれたままであった。
調和の神は、ゆっくり、おごそかに笑みを浮かべた…。
恐い。どうしたらいいんだ。暗闇の中、門に背を預けてうずくまるリズに、ブルックの呼びかけが届くはずもなかった。
ここには、自分を傷つける者はいない。でもその代わり、誰も自分を必要としてはくれないし、助けてはくれないし、関わってすらくれない…。
どこに行ったらいいの。
どうしたらいいの。
うずくまり、ただただ震える。その少女に、あらぬ奇跡が起こった。声が、聞こえた。誰も居ない虚空のはずのこの場所に、声が響いた。
―顔を上げて。
はっとした。でも、顔が上げられない。恐い。恐いんだよ。暗くて、何も見えなかったら、また失望しなくちゃいけない。あたしは、それが恐いんだよ。
―大丈夫。勇気を出して。あなたは、いつでもそうしてきたじゃない。
…。そうだ。あたしは、いつだって自分の足で歩いてきた。進んできたんじゃないか。辛いときも、楽しいときも、進むのは自分なんだ。
頭を、ゆっくり、ゆっくり上げる。広がった視界の闇の中、目の前が鼓動した。どくん。それは赤い光に変わる。鼓動するい光。
「これは…」
暖かい、淡くてまぶしい、赤い光。それは、アーガイルに伝わる魔道具、「最初の鍵」の模様をしていた。
―リズ。いったい何人の人が、あなたを支えているのか、
思い出して。
いったいどうしたらいいのか、自分はどこに行けば
いいのかわからなくなったら、思い出したらいいわ。
きっと、みんながあなたの進むべき道を教えてくれるわ。
「その声…。カティア様かい!?」
赤い光が笑みを浮かべた。優しい、木漏れ日のような笑み。鍵の向こうで笑顔を浮かべたのは、カティア=ジェルベールその人だった。
「ほら、立って。立てないなら、手を貸すから」
カティアに促され、リズは門から背を離し、立ち上がる。
「これは、あなたのものよ。
大事なものなんだから、無くしたらだめじゃない」
そう言ってカティアは微笑み、リズに鍵を手渡す。リズも礼を述べ、それを背中に取り付ける。
と、カティアの姿が消える。リズの心に、再び不安の影がさす。
―進むのよ、リズ。
あなたがどこに行きたいのか、なにをしたいのか、
思い出して。
わからなかったら、きっと、あなたの大切な人が教えてくれるわ。
…わかった。
リズは独語し、姿が見えなくなったカティアに答えると、走った。暗闇の中をひたすらに走った。どこに行けばいいのかわからない。道も、目の前もわからない。
―お前、一人なのか。だったら、俺様についてこい。
暗闇の中、リズの前に大男が現れて、そう言って笑う。森で出会った盗賊の頭。自分に名前を、光を、仲間を与えてくれた、蝶の目の頭目、ヴィクトール。彼は笑って、親指でリズの進行方向を示した。
「恩に着るよ」
リズは短く言い、ヴィクトールの横を通りすぎていく。また、進行方向に困り、不安になってくると、すぐに盗賊団の一員であり、中堅の男が道を示してくれた。
―リズ姉さん、こっちだ。
それしか言わなかった。ドッジ、あんたは本当に寡黙で仕事屋だったけど…信用のおける人間だった。また、礼を述べて、リズがドッジの横を駆け抜けていく。横を通るとき、何故か男が安心したような感じが伝わってきた。
次に道を教えてくれたのは、ブリューワ随一の貴族であり、紳士の男。
―フロイライン、このまままっすぐ進みたまえ。
さらに、妖精学者の若い男も、道を親切に教えてくれた。
―リズさん、まっすぐまっすぐ行ってください。応援してます!
思わず、リズの口元が緩んで、笑みがこぼれる。ラッセルも、パルディッツも、日ごろは感謝の言葉を言えていないけど、でも、本当に仲間だと思う。あんたたちみたいな奴らに会えてよかったよ。そんなことを思いながら、彼らに礼を述べ、また通りすぎていく。
まっすぐ、闇の中を進む。暗闇の中に今度浮かび上がったのは、黄金の鎧を着た主君と、その国の兵士。
―ふん。蛾か。いいから進め。
予以外の者に倒されるなど以っての他だ。
主君はそう言って、グラスに入った酒を口に含む。その横で兵士が、
―お前との決着は必ずつける。だが、それは今じゃない。
…とにかく進め。
と、乱暴な言い方で行き先を教えてくれた。リズはそんな彼らにも礼を言い、その横を通りぬけていく。
幾ら進んでも、出口は見えてこない。だが、出口を示してくれる人はまだ、リズには残っていた。
―ひひ。こっちじゃこっち。がんばるんだよ。
と、しわがれた声で占い師のグリディも、道を教えてくれる。
ありがとうよ、と言いながらその横を走り抜けるリズの前に、よく見知った顔がまた現れる。
―お姉さま。こっちです。負けないでください!
そう応援してくれたのは、リュシエンヌ=ジェルベール…現オランジュ女王であり、無二の妹だった。
「ああ、ありがとう」
妹にも礼を述べて、進んでいく。暗い闇の中、次に浮かび上がったのは、幼馴染の青年だ。
―リズ。こっちだ。
…お前ならやれる。自分を信じろ。お前は一人じゃない!
ありがとう、ソル。リズは頷いて、そう応えた。たくさんの人が、道を教えてくれた。行き先を示してくれた。でも、まだ暗闇は晴れない。
もうこれ以上は道がわからない…そう思いかけた時、彼女の目の前に、見覚えの薄い壮年の男性が現れた。
―王女様。こちらです。
彼は黒い貴族の服を着ていた。…思い出した。この人は、自分をブリューワまで連れていった人…。
ありがとう、そう言いかけたとき、もうすでに彼、ポドワン=ディンヌの姿は暗闇の中に消えていた。そうして足が止まりかけたとき、足元に異形が現れる。
この10数年間、彼女を助けつづけてきた、鳥の異形ブルックだった。気がつけば、彼の周りにはヨウジンボウやヴァンパイア、たくさんのリズを助けてきた異形たちが居た。
―何止まってんだよ。お前らしくない。
こっちだこっち。
ブルックがそう言って、行き先を示す。「みんなありがとう」。リズはそう告げて、彼らの横を駆け抜けた。
…。
…走る足が止まる。もう、誰も行く先を教えてはくれない。暗闇の中に一人ぼっち…。
だが、その時声がした。幼女の声。声は、こう告げた。
―お姉ちゃん。みんなが、お姉ちゃんの行き先を教えてくれたね。
ねえ、お姉ちゃん…お姉ちゃん自身は、どこに行きたいの?
「あたし、自身?」
暗闇の中で、聞こえる声に問答する。
―お姉ちゃん、あたしは…あたしはどこに行きたいの?
「あたしは…」
―わかるよね、もう。お姉ちゃんは…あたしは…
やることも、行くところもわかってるはずよ。
さあ、この手を取って!
リズの目の前に、手が差し出される。それは、小さな白い手。自分の手。記憶の中に消えた、自分の…。
それを、リズは掴んだ。あたしが…あたしが行くところ、あたしがやることは、あたしが決める。誰にも強制されたりしない。あたし自身が、決めるんだ…!
手は、リズを引っ張ってくれた。光の中へ。辺り一面の光に、目がつぶれそうで、目を閉じる。意識だけの世界で、声がしたのを確かに、リズは聞いていた。
―アドリエンヌ。あなたの手をこんな風にして握ったのは、
暖炉から真っ黒になったあなたを引っ張りだしたとき
以来かしら…。
こんなに大きくなって…。
私は、本当に嬉しいわ。
あなただったら、きっと強く歩いていける。
あなたのやりたいこと、行きたいところを、
見せてちょうだい。
私は、いつまでもあなたの傍にいるわ。
アドリエンヌ…。
彼女は、まばゆさに閉じた瞳を開いた。目の前には、調和の神の巨大な顔があった。
「あたしが…やりたいこと…行きたいところは…」
リズは拘束された自由の中で、なんとかカードケースに手を伸ばした。そして、バンシーのカードを振るう!
「あたしが決める!」
木霊バンシーが目の前に現れ、螺旋状に集まった気の塊を神の顔面に放出した。
「―ばかなっ」
触手の拘束がゆるんで、リズが落とされる。彼女は猫のように、素晴らしい反射神経と運動神経で着地した。
「―なぜだっ!なぜ我を拒絶する!
完全な統治…神による人間の管理!
それがどうして受け入れられない!」
神の触手が左右からリズに襲い掛かり、その華奢な体を貫こうとしたが、リズは蝶のように後方の空中に反転しながら舞い、また綺麗に着地してそれを避けてみせた。信じられないような運動神経を見せつけたリズは、神に言い放った。
「当たり前さ!
人は自分で決断し、自分で行動することで
道を切り開き、未来を、現在を作れる。
そうして必死に作ってきた現在だからこそ、
意味がある!
人間は、確かに小さいし争いもする。
でもそうやって、必死に生きて、必死に
遺した平和の中だからこそ、意味がある!
本当に人がつかんだ未来になるんだよ!
あんたは人から未来を奪おうとした。
だったら、あたしがみんなの未来を、
あんたから取り返してやる!
それが、あたしの答えだ!調和の神!」
―愚かな…!
逆鱗する神の触手が、後方からリズに襲い掛かる。しかし、それらはリズに達する前に切断されてしまった。
リズが振り向くと、そこにはヨウジンボウ、シェイルウッド、そしてソルが剣を振るってそれら触手を斬り裂いていた。
「今だ!とどめをさせ!」
「リズ!行け!!」
ソルとシェイルウッドが叫び、最後の一撃をリズに託す。彼女は頷いた。
神も、残りの触手をリズにぶつけようと前方180度包囲からリズに触手をたたきつける。轟音がした。しかし、リズはそれが当る前にレッドドラゴンと共に飛び上がっていた。
「―なっ!」
大樹の姿をした調和の神へ、レッドドラゴンが急速に上空から肉迫する。炎竜の口から、灼熱の炎の塊が放出される。
それは調和の神の巨大な体を包み込み、全身を焦がした。灼熱の中で、焼け爛れる痛みに悶えながら、大樹が崩れていく。
「お、愚かな…。
完全なる永久の調和…。
永劫の平和が…欲しくないと…いうのか。
な、ならば…覚えておくがいい。
お前たち人間に、小さき者に、続く平穏は…な、無い。
ただ悩み、苦しみ、阿鼻叫喚の地獄の中で、
生きて…いくがいい…」
大樹の影は、灼熱の炎の中でわずかずつ折れて崩れ、小さくなりそして、焼き尽くされていく。
「その度に、人は乗り越えるよ。
なんにもなかった、小さなあたしにだって
乗り越えられたんだ。
誰かが誰かを助け、そして自分の足で進み、
幾らだって前を向ける。
…あんたは、一人で悩みすぎたんだ。
またあんたが、アーガイルに生まれることができた
その時…あんたが居なくても、人は営んでいけるんだ、
って証明できるよう、がんばるからさ。
今はゆっくり、休めや…」
炎に目をやるリズが、そう誰にともなく言った時、灼熱の炎の中で、一枚のカードが回転し、そして、炎の中に消えた。
もう、アーガイルの蒼空を照らした太陽は、西の空に沈み始めようとしていた…。
みんな、終わったよ。
ぜんぶ…終わったんだよ…。
いつの日か大好きだった夕陽が、リズの横顔を照らした。
つづく
―――――――――――――――――――――――――――
※余談
もう終わってしまいますね…。
あとはエピローグを書いて、終いです。
もう、この―――――線の下に「つづく」って書けないんですね。
なんだか寂しい限りです。
今日明日には完結です。
本当に、長い間見てくださってありがとうございます。
是非、最後までお付き合いくださいね。
このシーンは何度も妄想したものの、まさかこんな早くに書くことになるなんて…w
私にとって、12/4は大事な日です。昨年のあの日が転機でした。だから、4日までに、RUNE2を書いてしまいたいです。まあうまく書けるかはわかりませんが。
さあ、最後の戦いですね。前回のあの窮地からリズがどうなるか、是非ご覧いただきたいところです。
では、自己満足に向けて、筆を進めましょうかね。
以下本文
――――――――――――――――――――――――――――
あれ、どうしたんだろう。
どこだ?ここ。
どうなったんだ?あたしは…。
辺りを見回す。
てか、これ目ぇ開いてんのか?どこ見ても暗くて何も見えねぇよ…。
だんだん恐くなってきて、走った。どこへともなく、まっすぐに。どこへ行けばいいかわからなくて、ひたすらに走った。と、手が何かに触れる。壁。白い壁。
それは、見覚えのある色と手触り。
「これは…なんでこんなところに…」
それは、ガディスの街の門。あの頃、オランジュの王室から捨てられて、行く宛ても無くて寄りかかって座っていた門。
それに気付いたと同時に、心の中に恐怖が入り込んできた。
この暗闇が、これからの未来が、あたしは恐いんだ…。この闇の中で、あたしは一人…。
リズはゆっくりと門に背中をもたれかけて、そして、座り込んだ。そして、背中に手を当てる。その時彼女はようやく気付いたのだった。
「…!?無い、鍵が、ない!?」
母から託された鍵は、今はリズの背中についていなかった。腰のバックルにも、カードケースはついていない。ポーチをまさぐると、砕け散った「魂を肉体に封じ込める石」があった。
…もう、彼女と誰かの関わりは、何もなかった。
「恐い…恐いよ」
彼女を救う何かも、他者も存在しない闇の中で、彼女はうずくまって、ただ震えた…。
…蒼空の下、少女の抜け殻を捕まえて放さない神は、勝利の余韻に、失望を禁じえなかった。
「―やはり、戦いは無駄だ。
鍵があったとしても、人間は
何も変えられない」
ため息をつくように調和の神はその言葉を吐き出した。遠くを見つめるような目線で、白い目は何かを見ていた。はたまた、思い出しているのかもしれない。
アーガイルにおける、これまでの人間の戦いの歴史を…そしてそれを過ちの歴史であると、忌み嫌っているのだろうか。
その思考は、あまりにも超越した存在であるが故に、誰にも計り知れなかった。
「そんなことねぇ!」
ふと、声が調和の神の顔面を殴りつけた。神は嫌悪感に眉間を歪ませ、生意気な声に気付いて視線を声源に向ける。そこにはうなだれ、ぴくりとも動かなくなった少女の肩にとまる雛の異形の姿があった。
彼は涙を流し、声を荒げて小さな体で必死に何かを訴えようとしていた。
「―異形のくせに、人間の肩を持つのか」
「んなこたぁ、この際関係ねぇ!
お前!リズをナメてんじゃねぇぞ!
リズはな、いつだって自分の足で歩いて、
自分の運命を精一杯生きてきた!
異形の力とか、鍵の力とかそんなことは
問題じゃない!
オレは、リズを信じてる!また、いつもみたいに
立ち上がってくる!そうに違いないってオレぁ、
わかるんだ!」
笑止。小さな異形のくせに何を言うか。神は必死に訴える幼鳥を冷笑し、吐き捨てるように言った。
「―だが、もうこの娘の魂は肉体を離れた。
もう甦ることはない!」
「いいや!んなこたぁ無ぇ!
リズは、いつだって乗り越えてきた。
これまでもそうだったんだ。
これからだってそうに決まってる!
そうだろリズ!返事してくれよ!
なあ!リズ!」
幼鳥の異形の必死な呼びかけも虚しく、少女はうなだれたままであった。
調和の神は、ゆっくり、おごそかに笑みを浮かべた…。
恐い。どうしたらいいんだ。暗闇の中、門に背を預けてうずくまるリズに、ブルックの呼びかけが届くはずもなかった。
ここには、自分を傷つける者はいない。でもその代わり、誰も自分を必要としてはくれないし、助けてはくれないし、関わってすらくれない…。
どこに行ったらいいの。
どうしたらいいの。
うずくまり、ただただ震える。その少女に、あらぬ奇跡が起こった。声が、聞こえた。誰も居ない虚空のはずのこの場所に、声が響いた。
―顔を上げて。
はっとした。でも、顔が上げられない。恐い。恐いんだよ。暗くて、何も見えなかったら、また失望しなくちゃいけない。あたしは、それが恐いんだよ。
―大丈夫。勇気を出して。あなたは、いつでもそうしてきたじゃない。
…。そうだ。あたしは、いつだって自分の足で歩いてきた。進んできたんじゃないか。辛いときも、楽しいときも、進むのは自分なんだ。
頭を、ゆっくり、ゆっくり上げる。広がった視界の闇の中、目の前が鼓動した。どくん。それは赤い光に変わる。鼓動するい光。
「これは…」
暖かい、淡くてまぶしい、赤い光。それは、アーガイルに伝わる魔道具、「最初の鍵」の模様をしていた。
―リズ。いったい何人の人が、あなたを支えているのか、
思い出して。
いったいどうしたらいいのか、自分はどこに行けば
いいのかわからなくなったら、思い出したらいいわ。
きっと、みんながあなたの進むべき道を教えてくれるわ。
「その声…。カティア様かい!?」
赤い光が笑みを浮かべた。優しい、木漏れ日のような笑み。鍵の向こうで笑顔を浮かべたのは、カティア=ジェルベールその人だった。
「ほら、立って。立てないなら、手を貸すから」
カティアに促され、リズは門から背を離し、立ち上がる。
「これは、あなたのものよ。
大事なものなんだから、無くしたらだめじゃない」
そう言ってカティアは微笑み、リズに鍵を手渡す。リズも礼を述べ、それを背中に取り付ける。
と、カティアの姿が消える。リズの心に、再び不安の影がさす。
―進むのよ、リズ。
あなたがどこに行きたいのか、なにをしたいのか、
思い出して。
わからなかったら、きっと、あなたの大切な人が教えてくれるわ。
…わかった。
リズは独語し、姿が見えなくなったカティアに答えると、走った。暗闇の中をひたすらに走った。どこに行けばいいのかわからない。道も、目の前もわからない。
―お前、一人なのか。だったら、俺様についてこい。
暗闇の中、リズの前に大男が現れて、そう言って笑う。森で出会った盗賊の頭。自分に名前を、光を、仲間を与えてくれた、蝶の目の頭目、ヴィクトール。彼は笑って、親指でリズの進行方向を示した。
「恩に着るよ」
リズは短く言い、ヴィクトールの横を通りすぎていく。また、進行方向に困り、不安になってくると、すぐに盗賊団の一員であり、中堅の男が道を示してくれた。
―リズ姉さん、こっちだ。
それしか言わなかった。ドッジ、あんたは本当に寡黙で仕事屋だったけど…信用のおける人間だった。また、礼を述べて、リズがドッジの横を駆け抜けていく。横を通るとき、何故か男が安心したような感じが伝わってきた。
次に道を教えてくれたのは、ブリューワ随一の貴族であり、紳士の男。
―フロイライン、このまままっすぐ進みたまえ。
さらに、妖精学者の若い男も、道を親切に教えてくれた。
―リズさん、まっすぐまっすぐ行ってください。応援してます!
思わず、リズの口元が緩んで、笑みがこぼれる。ラッセルも、パルディッツも、日ごろは感謝の言葉を言えていないけど、でも、本当に仲間だと思う。あんたたちみたいな奴らに会えてよかったよ。そんなことを思いながら、彼らに礼を述べ、また通りすぎていく。
まっすぐ、闇の中を進む。暗闇の中に今度浮かび上がったのは、黄金の鎧を着た主君と、その国の兵士。
―ふん。蛾か。いいから進め。
予以外の者に倒されるなど以っての他だ。
主君はそう言って、グラスに入った酒を口に含む。その横で兵士が、
―お前との決着は必ずつける。だが、それは今じゃない。
…とにかく進め。
と、乱暴な言い方で行き先を教えてくれた。リズはそんな彼らにも礼を言い、その横を通りぬけていく。
幾ら進んでも、出口は見えてこない。だが、出口を示してくれる人はまだ、リズには残っていた。
―ひひ。こっちじゃこっち。がんばるんだよ。
と、しわがれた声で占い師のグリディも、道を教えてくれる。
ありがとうよ、と言いながらその横を走り抜けるリズの前に、よく見知った顔がまた現れる。
―お姉さま。こっちです。負けないでください!
そう応援してくれたのは、リュシエンヌ=ジェルベール…現オランジュ女王であり、無二の妹だった。
「ああ、ありがとう」
妹にも礼を述べて、進んでいく。暗い闇の中、次に浮かび上がったのは、幼馴染の青年だ。
―リズ。こっちだ。
…お前ならやれる。自分を信じろ。お前は一人じゃない!
ありがとう、ソル。リズは頷いて、そう応えた。たくさんの人が、道を教えてくれた。行き先を示してくれた。でも、まだ暗闇は晴れない。
もうこれ以上は道がわからない…そう思いかけた時、彼女の目の前に、見覚えの薄い壮年の男性が現れた。
―王女様。こちらです。
彼は黒い貴族の服を着ていた。…思い出した。この人は、自分をブリューワまで連れていった人…。
ありがとう、そう言いかけたとき、もうすでに彼、ポドワン=ディンヌの姿は暗闇の中に消えていた。そうして足が止まりかけたとき、足元に異形が現れる。
この10数年間、彼女を助けつづけてきた、鳥の異形ブルックだった。気がつけば、彼の周りにはヨウジンボウやヴァンパイア、たくさんのリズを助けてきた異形たちが居た。
―何止まってんだよ。お前らしくない。
こっちだこっち。
ブルックがそう言って、行き先を示す。「みんなありがとう」。リズはそう告げて、彼らの横を駆け抜けた。
…。
…走る足が止まる。もう、誰も行く先を教えてはくれない。暗闇の中に一人ぼっち…。
だが、その時声がした。幼女の声。声は、こう告げた。
―お姉ちゃん。みんなが、お姉ちゃんの行き先を教えてくれたね。
ねえ、お姉ちゃん…お姉ちゃん自身は、どこに行きたいの?
「あたし、自身?」
暗闇の中で、聞こえる声に問答する。
―お姉ちゃん、あたしは…あたしはどこに行きたいの?
「あたしは…」
―わかるよね、もう。お姉ちゃんは…あたしは…
やることも、行くところもわかってるはずよ。
さあ、この手を取って!
リズの目の前に、手が差し出される。それは、小さな白い手。自分の手。記憶の中に消えた、自分の…。
それを、リズは掴んだ。あたしが…あたしが行くところ、あたしがやることは、あたしが決める。誰にも強制されたりしない。あたし自身が、決めるんだ…!
手は、リズを引っ張ってくれた。光の中へ。辺り一面の光に、目がつぶれそうで、目を閉じる。意識だけの世界で、声がしたのを確かに、リズは聞いていた。
―アドリエンヌ。あなたの手をこんな風にして握ったのは、
暖炉から真っ黒になったあなたを引っ張りだしたとき
以来かしら…。
こんなに大きくなって…。
私は、本当に嬉しいわ。
あなただったら、きっと強く歩いていける。
あなたのやりたいこと、行きたいところを、
見せてちょうだい。
私は、いつまでもあなたの傍にいるわ。
アドリエンヌ…。
彼女は、まばゆさに閉じた瞳を開いた。目の前には、調和の神の巨大な顔があった。
「あたしが…やりたいこと…行きたいところは…」
リズは拘束された自由の中で、なんとかカードケースに手を伸ばした。そして、バンシーのカードを振るう!
「あたしが決める!」
木霊バンシーが目の前に現れ、螺旋状に集まった気の塊を神の顔面に放出した。
「―ばかなっ」
触手の拘束がゆるんで、リズが落とされる。彼女は猫のように、素晴らしい反射神経と運動神経で着地した。
「―なぜだっ!なぜ我を拒絶する!
完全な統治…神による人間の管理!
それがどうして受け入れられない!」
神の触手が左右からリズに襲い掛かり、その華奢な体を貫こうとしたが、リズは蝶のように後方の空中に反転しながら舞い、また綺麗に着地してそれを避けてみせた。信じられないような運動神経を見せつけたリズは、神に言い放った。
「当たり前さ!
人は自分で決断し、自分で行動することで
道を切り開き、未来を、現在を作れる。
そうして必死に作ってきた現在だからこそ、
意味がある!
人間は、確かに小さいし争いもする。
でもそうやって、必死に生きて、必死に
遺した平和の中だからこそ、意味がある!
本当に人がつかんだ未来になるんだよ!
あんたは人から未来を奪おうとした。
だったら、あたしがみんなの未来を、
あんたから取り返してやる!
それが、あたしの答えだ!調和の神!」
―愚かな…!
逆鱗する神の触手が、後方からリズに襲い掛かる。しかし、それらはリズに達する前に切断されてしまった。
リズが振り向くと、そこにはヨウジンボウ、シェイルウッド、そしてソルが剣を振るってそれら触手を斬り裂いていた。
「今だ!とどめをさせ!」
「リズ!行け!!」
ソルとシェイルウッドが叫び、最後の一撃をリズに託す。彼女は頷いた。
神も、残りの触手をリズにぶつけようと前方180度包囲からリズに触手をたたきつける。轟音がした。しかし、リズはそれが当る前にレッドドラゴンと共に飛び上がっていた。
「―なっ!」
大樹の姿をした調和の神へ、レッドドラゴンが急速に上空から肉迫する。炎竜の口から、灼熱の炎の塊が放出される。
それは調和の神の巨大な体を包み込み、全身を焦がした。灼熱の中で、焼け爛れる痛みに悶えながら、大樹が崩れていく。
「お、愚かな…。
完全なる永久の調和…。
永劫の平和が…欲しくないと…いうのか。
な、ならば…覚えておくがいい。
お前たち人間に、小さき者に、続く平穏は…な、無い。
ただ悩み、苦しみ、阿鼻叫喚の地獄の中で、
生きて…いくがいい…」
大樹の影は、灼熱の炎の中でわずかずつ折れて崩れ、小さくなりそして、焼き尽くされていく。
「その度に、人は乗り越えるよ。
なんにもなかった、小さなあたしにだって
乗り越えられたんだ。
誰かが誰かを助け、そして自分の足で進み、
幾らだって前を向ける。
…あんたは、一人で悩みすぎたんだ。
またあんたが、アーガイルに生まれることができた
その時…あんたが居なくても、人は営んでいけるんだ、
って証明できるよう、がんばるからさ。
今はゆっくり、休めや…」
炎に目をやるリズが、そう誰にともなく言った時、灼熱の炎の中で、一枚のカードが回転し、そして、炎の中に消えた。
もう、アーガイルの蒼空を照らした太陽は、西の空に沈み始めようとしていた…。
みんな、終わったよ。
ぜんぶ…終わったんだよ…。
いつの日か大好きだった夕陽が、リズの横顔を照らした。
つづく
―――――――――――――――――――――――――――
※余談
もう終わってしまいますね…。
あとはエピローグを書いて、終いです。
もう、この―――――線の下に「つづく」って書けないんですね。
なんだか寂しい限りです。
今日明日には完結です。
本当に、長い間見てくださってありがとうございます。
是非、最後までお付き合いくださいね。
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