きらめき高校吹奏楽部 ~もしきら高に歴代ヒロインがみんな居たら~   今までしてきたことが、遊び…?

しごといそがしすぎ。つまり安定の小出し・・・


滅入るでこれは…。
いろいろ言いたいことがあったはずなのに疲れて思いつかへんわww


とりあえずまとめページの文言を追加したけど、これはお前らを守るためなんや。われながら感じ悪いけどしかたねぇ。


ところでときめきの小説書くと、オリジナル主人公くんを起用する限り、どうあがいてもメアリー・スー要素はゼロにならないと思うんよ。だって読み手にとって好きなキャラが、ぜんぜん知らんやつにメロメロなんやで。嫌やろふつう。あとは度合いがどうか、やけどね。


あの、一応、某所のメアリー・スーチェックでは直人君は24点を獲得し、「これぐらいなら大丈夫でしょう」をいただきました。でも人によっては嫌だろうなと自覚はしていますんで、今後は「ぜひ読んでください」とかは絶対言わないようにしたいと思っています。


でもこれだけは言い訳させて。
直人君に自己投影する気はぜんぜんない、むしろウチ版直人君ならここでこんなこと言いそう、とかそういう基準で動かしているんだますです。むしろ己とは正反対に書いているとこも結構多いっていう…

以下本文
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きらめき高校の中庭を、街を運河が横切るみたく、二つに分かつ渡り廊下。これは、教室棟と理科棟をつなぐものであり、ここで地べたに座って昼食をとる生徒も多く居るが、さすがに冬は寒く、中庭同様人通りは激減する。皆、ストーブの点いた教室内で、放送部の校内放送をBGMに、昼休みを過ごすのである。


だが、その渡り廊下で、シャツにジャージを羽織っただけの薄着のまま佇む風の子も居る。ただ、「子」というのは正しくなく、その人は先生、つまり大人なのだが。


「先生」
「おお、来たか」
「すみません待たせて」


その大人に近付いて、話しかけた生徒、つまり子供。

他の生徒たちでごった返す自販機コーナー付近を、楽器ケースをかばいながら歩いてきた彼は、ようやくそれを肩から降ろして優しく寝かせ、冬服の上着から温かいコーヒーと、余分のおつりを先生に返した。が、おつりの方は、拒否された。


「いい、いい。
 気にすんな!お使いの、おだちんだ!」
「えっ、でも…」
「そんなもん持って走り回ったら
 落としてばらまいちゃうだろうが。


 俺にはな、スカートの短い女子や
 ズボンの低い男子を正しく導く義務がある!


 そいつらがたとえ廊下の端に逃げようとも、
 俺だけは最後まで追いかけて直してやるんだ!」
「は、はぁ…。

 すみません。あざす」
「おう!」


若手の体育教師にコーヒーだけを渡し、小銭は引っ込める生徒。

 
「あち、あち」とか言いながら渡された缶をお手玉し、猫みたいに弄ぶ先生を見ながら、オーソドックスなメーカーのポピュラーなブランドの缶を示し、直人は言う。


「いただきます」


好雄などに奢ってもらったときは「ごちでーす」なんて言う割に、こういうところでは一応礼を通す彼。それは紛れもなく、中学時代の部活の上下関係が厳しかった名残である。


言われた先生は、また「おう!」と威勢も気前も良く答え、生徒に続いて缶を開封する。


「…うん。うまいな!」
「はい。
 
 でも、先生てコーヒーとか飲むんですね。意外」
「そうか?
 じゃあお前的に俺は、何を飲んでそうに見えるんだ」
「水、とか…?」
「はは。まあ正解だ!
  

 ただ、俺がお前らぐらいのときは、
 ダチとよく飲んでたもんよ、コーヒー。

 
 それも、この季節でも、つめた~いのをな」
「え、なんですか」
「ん?そりゃ決まっているだろ! 

 ハートが熱かったからだ!」
「……は、はぁ」
「……ご、ごほん!


 …で、高見。
 お前、俺に何を聞きたい?」


唐突に、声が落ち着く。
校舎から漏れ出す放送部のBGMと、生徒たちの声。中庭ではこの寒さをものともせず、ふざけている生徒のグループもいくらか見える。それらを見ながら、先生は目を合わせずにそう言った。


「…。

 …麻生先生のこと。あと、吹部のこと」
「…まあ、俺もな。
 全部じゃないが、お前の頑張りは見てきたつもりだ。


 その笛の練習してるところだけじゃなく、
 俺のありがた~いHRの時間に楽譜見てたのもな」
「…。

 す、すみません」


思わず返す苦笑と謝罪。
だが、先生は怒るわけでもなく、むしろ同調してくれた。



「いや、俺も同じ男だからな、分かる!
 

 賭けてみたくなるよな、一秒。
 賭けてみたくなるよな、自分。


 その道のプロになるつもりじゃなくとも、
 目の前のそれに全力かけたくなるよな!


 …だからこそ、いいのか?」
「え…?」
「俺が今から言うことは…。

 お前が全力を賭けてきた吹部を
 終わらせちまうかもしれないんだぞ」


もしも古我の言うことが、事実上の死刑宣告だったら。

麻生先生は教師を辞め、誰も顧問が居ないので吹奏楽部は廃部です、そんなエンドへの快速切符である可能性は、どちらかというと大きい。




…和泉。

もし俺が今、きら高の吹部を失ったら…。俺が今まで考えてきたこと、もらった気持ち、それがぜんぶ、「あれ」だって認めることになる。そう、俺らが何を感じても、何をしても、結局は誰かの決めた都合の上で成り立ってる、芝居みたいなもんなんだって…。


…そうなったら俺は、お前との約束に答えなんて出せない。



…いや、それでも…。   

たとえ舞台が大人の都合の上でしかないとしても…。全部を大人が決められるわけじゃない。パットが納得して帰れたのも、都子とちゃんと向き合えたのも、こなみちゃんがプロ続けるって決めた時も、皐月先輩がかっちりケリつけれたのも…。


結局、俺たちは大人の決めたことに従うしかないのかもしれない。
でも、その時その時、何を一番大事に思ってるか…それを自分の胸に縛り付けてんのは、最後まで自分だったんじゃないのか。みんな。


「……。

 ええっす。教えてください」
「覚悟はできてるってわけか。
 上等だ!
  

 なら言うが、麻生先生は――」


…確かに覚悟はできてる。



だが、あまりにも早くギロチンの刃が動きそうなものだから、直人の表情がみるみる不安と苦悩に染まる。
  

「今、微妙な感じだ」
「微妙…?

 ど、どういうことなんですか」
「俺も詳しくは知らん。
 これから話すことは盗み聞きしたことだから
 チクるなよ!?誰にも」
「は、はい」


上から降ってきたギロチンが首元で留まったかのようなこの前ぶりに、もどかしい思いと緊張感が肩を組み、胸の中で踊りまわっているかのような焦燥感に捉われる。だが直人の心境など知ってか知らずか、先生は辺りを見回し、再度釘を打ってから、咳払いと共にようやく続きを話し出した。


「7月にも問題になったように、
 去年度までと比べてお前ら吹部の公式大会での成績は、
 悪くなっただろ」
「それは、でも」
「そうだ、それ自体は麻生先生のせいじゃない。
 

 そこはむしろ、お前たちが頑張って
 カバーしたことになるよな」
「…?カバー?」
「全校集会だよ。
 
 いったんなくなった吹部にちゃんと部員を集めて、
 短い間に合唱部とサシでやりあえる実力を証明しただろ。


 だからむしろ、麻生先生は評価されていた!
 まあ、きら高の中ではな」


いつもは暑苦しい叫ぶ系な先生の、何か視野の広さを感じさせる物言いに、直人は意外な印象を拭えなかった。が、そういえば昨今、倍率の高い教師という職業に就いた人なのだから、それもそうかと納得し、耳を傾けていく。


「…きら高の中では?
 じゃあ…」
「なんか、あるんだろ。
 高野連みたいなのが吹部にも。


 そいつらの問題で、ピンチらしいな」
「吹奏楽連盟…」


その名前を口にした直人の表情は明らかに、あの海へと友人を誘った大会に思いを馳せている様子だった。ただそんなことなど、彼の顔を見ただけでは、八重 花桜梨でもなければわからないのだが。


「俺もきら高に務めて何年か経つが、
 だいたい、いつも吹部は壮行式やら何やらの
 常連だった。


 全国に行ったとかって話は聞かないが、 
 あと一歩だったとかそういう話は何度も聞いてたな。


 だからあれなんだろう。
 この県のその…」
「吹奏楽連盟…?」
「そう、それだそれ。

 その連盟が、全国に通用する学校が1つ減ったってもんで、
 頭に来たんじゃないのか」
「あ、頭にって。
 でも、そんなのかっ…麻生先生に非はないっすよ」
「まあそうなんだろうけどな。


 けど色々あるんだろ?

 県に実力のある先生が何人居て、
 それがどこの高校に就くかとか、公立の音楽の先生が異動すんのに
 その何とか連盟も関わってるんだろ。

 
 それをまあ何の相談もなく
 1つヤマ潰された、みたいな感じじゃないのか…」


…あの時と同じか。


コーヒーより苦い何かが、楽器を置いた奏者の表情によぎる。


中学の時の顧問が自分たちにやるせなさげに説明した、「こういうこともあるんですよ」。あれは確かに“大人”のやったことには違いないが、あの顧問の範疇ではなかったであろうことを、直人たち生徒にはなんとなくわかっていた。先生の様子が、本当に悔しそうだったからだ。


今の、麻生 華澄もまた同じことがいえる。
彼女は、きらめき高校の吹奏楽部を失くしてしまえなどとは微塵も思っていなかったろう。むしろ、新しい体制で漕ぎ出そうとしていたところを、領海主に止められたような格好になる。



…先生は、吹連に何も相談してなかったのかな。
それは、俺なんかにはよくわからない…。いや、してたらもっと、えらい先生がどっかから引き抜かれてきてウチの顧問になったり、講師がバンバン来たりしてたんじゃないか…?


だとしたら、なんで先生は講師をもっと呼んだりしなかったんだ。
確かに、早い段階で呼んでくれてたら、初心者のみんなも悪い癖がついたまま上達してくリスクを避けられたかもしれないのに…。



――そこまで考えて、はっとした。


…いや、違う。
呼べなかったんだ。 
 

ウチの部の人は、大会で金賞を取りにいこうなんてガチ勢ばっかじゃない。でもやがてはそういう風にしていくことが、演奏にタイトさを持たせることになる。それだけじゃない、目標があれば団結できるし、意識も高まる。だとしたら少しずつでも、そういう風に上を目指す方向に、初心者のみんなの意識を持ってかなきゃいけない。


けどいきなり厳しくしたら辞めるやつも出てくるかもしれない。
いや、っつーかまず辞める。


…だから、ちょっとずつやってたんだ。
先生は多分、長いスパンで考えて、きら高の吹部を良くしてこうと思ってたんだろうな。最悪、俺らがだめでも、何年かかけて固めていこうって…。


「…それで、その。
 
 先生は、部活、辞めさせられるんすか。
 学校の方は大丈夫なんすか」
「まだわからん。

 まあそんな、辞めさせられるってことはないだろうがなぁ、
 ただ、この時期だろ」
「この時期?

 …あっ」 


もう1月半もすれば、教職員の異動が行われ、4月には新学期が始まるのだ。そのために、来年度からきらめき高校 吹奏楽部を是正するため連盟が動き出したと考えれば、吹奏楽部の顧問がどうなるのかは、おのずと見えてくる。



…来年からえらい先生がどっかから来て、華澄先生は二番手的な感じに追いやられる、っていうのが自然か。でも、一回こんなことになったら…居辛いだろうな…。





横に立つ先生とは違い、コーヒーがまったく進まない生徒。
彼がふと手の中で逃げていく温もりにやっと気付いた時、ようやく2口目を含んで、白い息とともに、思わず吐き出したのは、不安。


「…。

 なんか…。


 なんか……なんなんすかね。


 
 俺らが必死で部活して、賞取っても…。

 先生らぁにとっては毎年のこと、いつもの…
 そういう感じなんしょ?


 …けど俺らには。
 俺らには、次のこととか、先のことなんて…
 眼中にないっすよ…。


 そんな俺らに関係ないこと押し付けられて、
 それしかないのに今を奪われて。

 
 …それで、昔に比べたらまだマシだとか
 もっとひどいとこはあるとかなんとかいって、
 誤魔化されたって…俺には、納得できません」
 

口にせずにいた不満や毒を吐き出した苦痛の表情を、隣から“大人”が、ばつの悪い顔で見つめる。古我は少しばかり黙って、そのまま生徒の苦しげな顔を見ていたが、やがて、真顔で言った。 
 

「熱いな」
「……」
「テメエにはこれしかない、
 だから真剣に考えて、打ち込んで、
 全力出してます。ってか。


 でもな、高見。
 先生を憎んでやるな」
「…別にそんな、麻生先生がぜんぶ悪いなんて
 思ってないですけど…」
「…そっか。

 
 あのな。お前らがそうやって、いろんなものを
 なげうって本気を出せるのは、どうしてか…。
 考えたことがあるか?」
「えっ…」


突然の質問、その方向性がよくわからず、直人は思わず、疑問符を返す。


「どういうことですか…?」
「俺もな、お前らぐらいの頃は、熱かった!
 どうしようもないぐらいに熱中して、
 結局あの子には…くうっ…!」
「……」
「ん、んんゴホン!


 で、だな。
 そうやって時間やいろんなものを賭けて
 部活だのケンカだのに本気出せるのは、
 結局…遊びだからだ」


サックス吹きの顔が、すぐさま怪訝に歪む。


…出た。
世の中でインハイ出場っつったらすごいけど、吹コン全国大会出場っていわれたら微妙な感じになる、あれじゃん。


そりゃ泥だらけにはならない。シゴキだってないかもしれない。でもな…吹部だって十分キツいよ、それを遊びの笛吹きみたいに考えてる運動部の先生、ほんと嫌い…。



「…なんすかそれ。
 遊び…?

 じゃあなんすか、遊びで人が死ぬんすか…?
 遊びで人がガチ泣きするんすか…!?」
「ああ。遊びだ。


 お前らのそれは、生活がかかってるか?
 ちゃんとやらなきゃクレームが入って、
 お客さんに謝りにいくようなことがあるか?


 ないだろ。
 結局どこまでいっても、趣味とか遊びみたいなもんでしか
 ないんだ、社会じゃ。

 
 …でもな。
 だからこそ何もかも賭けて、本気でできるんだ。

 
 お前、もしこれが仕事だったら、今まで通りできるか?
 俺には吹部とか笛とかはよくわからんが、
 色々変えなきゃいかんだろ」

  
今まで積み重ねてきた吹奏楽部としての日々、それにより固まった吹奏楽部としての意地、矜持、価値観。それが、「遊び」だといわれたことに難色を示しているのだが、言われていることがまるで正しいせいで何も言い返せなくて、直人の中で何かが濁って泡立つ。


確かにこれが仕事であれば、今までに何度、飯を食いっぱぐれていることか。それを恐れたら、全校集会や文化祭では、もっと手堅い演奏をしていたはずだ。


失敗しても、目標に届かなくても、帰れば飯にありつける。眠る場所がある。都子を介してではあるが、おこづかいをもらえる。十分、守られている。

 
ただ、それは世の高校生のほとんどに言えることだろうし、それにありがたみを感じろという話なら、いまさら聞きたくなどない、むしろ今ほしいのは、そのありがたみをこれからもありがたいと思っていられる環境の方である。だから直人は、逆説の接続詞を返そうとした。だが、言葉を選んでいる間に、先生から続けられた。
 
 
「それを麻生先生はなぁ、
 お前らの代わりに人数分背負って、
 教師1年目でやってたんだ。大変だったと思う。
 

 でもな、必死だとな。
 ありがたいともなかなか思えないよな。


 …いいんだよそれで。
 ありがとうなんてのは最後に一回言ってやりゃあ。
 

 遊びなら遊びで、とことんまでやってやりゃあいいんだ。
 大人ももちろんだが、周りもドン引きするぐらい
 やり通してやれ!


 …麻生先生も、すぐに辞めさせられるようなことは
 ないだろう。何か際立って悪いことをしたわけじゃ
 ないしな。


 来年がどうなるかはわからないが、とにかく!
 やれる内は思う存分本気でやればいい。


 …もしそれで来年、どうにもなりそうにないなら、
 俺に任せろ!
 この俺が可愛い生徒のために、一肌脱いでやる!」


コーヒーは渡り廊下の柵壁の上に置き、直人の両肩を掴んで正対した先生の力強い言葉に、直人は、納得半分、まだ整理のつかないところ半分で、目も合わせず、微妙な返事をした。


「は、はい…」


直接的な答えは貰えなかった。
だが不思議な解答だった。先生からの助言でもあるが、自分たち生徒の目線を意識しているのは間違いなかった。

 
それからやがて、先生は去っていった。 
どうやら先生は、次の授業の準備等で忙しいらしい。
 

…どうせ遊びならとことん全力で、か……。


この寒い中、ひとりで中庭に居る意味もない。楽器ケースを拾い上げ、まだ中身の残るぬるいコーヒー缶を手に、直人もA組に帰ることにした。


その途中、4階に上がったところで、部活仲間に出会った。その子もひとりで歩いていたのだが、方向からすると、トイレか、あるいは他のクラスに用があったのかもしれない。目が合うと、自然と挨拶から入って、会話になった。


「やぁ。
 …あっ、もしかしてキミ。
 どっかでこっそり吹いてたのかい?」
「へ?」
「それそれ。商売道具」
 
 
褐色の手で指差した楽器のことを彼女がそう言ったのは、古我が言うところの「生活がかかった仕事」に、既にこの歳で従事しているからこそなのかもしれない。微笑してそう言う一文字 茜に、直人は首を横に振った後、問いを投げかけた。


「あ、いやいや。
 音楽室開いてないからさ、置いとけなくてさ。
 だから万が一考えると、
 持って歩かなきゃなんか落ち着かなくて。


 …そうだ。
 あのさ。ちょっと聞いていい?」
「ん?急になんだい?」
「一文字さんって、あっこの食堂のバイトで
 生活してるって言ってたよね。


 やっぱ…生活かかってるバイトって緊張する?
 部活なんかより…?」
「どうしたんだい薮から棒に。
 だいたい、バイトならキミもしたことあるじゃないか」
「あ、いや、まあそうなんだけど。

 でも俺がやったバイトって、やっぱ小遣い稼ぎ的な
 感じだったし、短期だったから慣れようとするだけで
 終わっちゃったし。


 なんかやっぱ、違うのかなって」


一文字の仕事振りは、直人も多々見たことがある。
恋羽 こなみの件、あるいは赤井や柳との食事の際、彼女の働く食堂を利用したからだ。
  
 
一文字の声は大きかった。吹奏楽部になってからは前にも増して大きくなったというオーダー読み上げの声、来店時の挨拶は、食堂内の強弱記号を引き上げ、家族連れや学生同士などが会話しやすくなり、いかにも食堂らしい砕けた空気を作り上げる要因になっている。

  
動きも本当に早い。なのに皿を置くときは音を立てないようにしていたり、各席に備え付けられた調味料やわりばしが減ってきたら補充する気配りも忘れていない。たまにお冷とかおしぼりを持っていくのを忘れたりすることもあるようなのだが、その際はしっかり謝っていた。 

  
その一連の動きが、同い年の直人にできないのかというと、経験の有無からくる熟練度の差を考慮しなければ、できなくはないだろう。だが、それを部活の後、しかも毎日毎日やれといわれたら、自信はないし、気持ちも折れる。


そんな生活を文句のひとつもいわずにやってのけているこの人には、同級生が数年後に培うであろう教訓や覚悟が既に、備わっている。それを聞きたくて直人は、お兄ちゃんとは似てもにつかぬ、くりっとした目を見た。


「うーん…。
 どうなんだろう。

 
 オジちゃんにできるだけ迷惑かけたくなくて、
 ボクに何かできることないかなってはじめたのが
 店の手伝いだったからさ。


 お米を買うお金を貰うからにはバリバリ働かなきゃ!
 …っていう感覚、あんまりないんだよね。


 こんなことしか言えなくてゴメンね。
 こういうのって、ボクよりかずみの方がうまく答えてくれるんじゃない?」
 

男子の間では「大きい」とひそかに噂されるバストの下で、合わせた手をもじもじさせてすまなさそうに笑う一文字に、直人は「いやいやいや」とお得意の口癖でとりなし、こっちこそ変なこと聞いてごめん、と謝った。


「ううん、気にしないでよ。
 お兄ちゃんも言ってたよ、男が簡単に謝るなって」
「は、はは…。
 俺は、「悪いことしたらちゃんと謝りましょう」って近所のお姉ちゃんに
 ちっちゃい頃よく言われてたけど」
「それはホントその通りだよ。
 でもキミ、そんなに悪いことばっかりしてたのかい?」
「いやいや、そんなことは…。

 ってあれ。よく言われてたってことは、
 そうなのかな。自覚ねー」
「やんちゃだったんだねぇ。
 でも、男の子はそれくらいの方が
 いいと思うな、ボク」
「それも、お兄ちゃんが?」
「あっ。ばれちゃったかぁ」

 
思わず笑い出してしまう2人。  
が、ややあってその笑いが尾を見せた時、一文字は突然、「あーあ」と、その尾を翻すようなことを微妙な表情からため息交じりに漏らした。その大きすぎるため息の理由は、ラジオ体操第一の背伸びをするように組んで挙げた両の腕を組んだまま前へと下ろした時、直人の目ではなく白い天井を見ながら、語られた。


「お兄ちゃん、結局一回も聴きに来てくれないなぁ、
 部活の演奏」
「こないだの体育館の時も、居なかったね」
「うんうん…。

 ボクさ、部活も、食堂の仕事とおんなじくらい
 大事なことだって思ってるんだ」
「まあ部活は、ミスって給料天引き、なんてこと
 ないんだけどね」
「ううん!そうかもしれないけど、
 部活は一発勝負だし、本気で勝負するとこじゃないか!」 

 
何か、長年やっているはずのベテラン吹奏楽部が、今年度から始めた人に、舞台の重みを説教されてしまうなんていう、妙なことになっている。一旦浮かべた苦笑をしまい、直人は、「た、たしかに」と同意を返した。


「ボクにそれを教えてくれたのは…。
 かずみやキミなんだ。


 かずみもキミも他の子も、みんなほんと一生懸命
 練習するし、まるで勝負する前のお兄ちゃんみたいに
 真剣でさぁ…」


…自分のことはまあよくわからないけど。
でも、渡井や、詩織や、八重さんみたいに、ガチ勢は練習熱心だからなぁ。そういう人らが全校集会とかで根幹になってったから、練習の態度とか部活の空気も、めちゃくちゃにならずに済んでんだろうな。 



直人の思う「そういう人ら」の本気度を鑑みれば、確かにあの総番長の並々ならぬ強さへの執着にもつながらなくはないなと、なんとなく納得させられて、妙なたとえなのにうなずけてしまう、聞き手。


「でもケンカと部活は違うとこがあるだろ。
 ボク、部活のそういうとこが大好きなんだよ」
「え?違うとこ…って?」
「勝負するのは自分自身!

 そんでもって、勝ったら喜ぶのは自分だけじゃなくて、
 みんな!


 そういうのってなかなか、仕事じゃ味わえないしさ。
 うれしいんだ」


全校集会の神がかり的な勝利、文化祭のサプライズ成功…それらは、公式の場での賞には結びつかないのだが、この上ない達成感や充実感を、部員たちにあますことなく与えた舞台だった。


――でもな、だからこそ何もかも賭けて、本気でできるんだ。


先生の言葉を思い出して、一文字の心から嬉しそうなあったかい笑みを見て、直人は思う。…遊びだかどうかはわからない。でも、これはこれで。本気を出す価値がある場所だってことっしょ、あそこは。



「だから。
 お兄ちゃんがちゃんと来てくれるまで…。
 なくならないでほしいなぁ」
「うん…」


自分には一文字や渡井のような仕事振りを、すぐさま発揮できない。それは、夏場の短期バイトで痛感した。だがそんな自分が本気を出して、何かの役に立てる場所があるのなら。そこでできることならなんでもしてやると、直人は密かに思った。




多分、つづく






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