きらめき高校吹奏楽部 ~もしきら高に歴代ヒロインがみんな居たら~   今はシュレディンガーの猫

頑張れるんじゃないか、でも無理なんじゃないか、いやいやどっちやねんの今


こんちは。もう今のこの流れは終わります、これ以上引っ張りませんのでご安心ください(?)

もう正月気分も抜けて、健康診断とかの季節が始まるんですよねー、また俺氏血圧引っかかるんじゃねーか…?w


さて、以前、高見君の状態は「失恋した人」みたいな感じだと話しましたが…覚えていますか…?(華澄感)

ご、ごほん!w
あの、周りは「またいい人見つけなよー」とか「見返すぐらいいい女になればいいじゃん!がんばろ!」とか言ってくれるんですが、励まされている自分自身は未だ未練タラタラで、楽しかった思い出にしがみついていたり、まだ好きなままフラれてその気持ちだけが独りよがりに残ってしまっていて、周りとの温度差に現実を受け入れられない状態、って奴ですね。


自分は「死にたい」「過去に戻りたい」「フラれた自分が憎い」と。
でも周りは「頑張ってほしい」「心配」「元気になってほしい」と。

両者の方向性は真逆、だからどんなに心配されても高見君はありがたいと思えないし、理解してくれないと思ってしまう、そして周りも心配しているのにその気持ちが報われずに疲れて呆れてつられて悲しくなってしまう、そんなどうしようもない関係性が、今作の空気に現れているわけです。くどくてすみませんけどもww


しかしですね、「失恋から立ち直った曲」が、これまでのきら高に出てきたのを覚えてる人はあまりいないんじゃないでしょうか。その曲の歌詞は、その時の奏者の心境や境遇にシンクロしていて、そのことを理解しながら奏者も吹いていたかのように、書いた覚えがあります。


その人なら、失恋の苦しみ、立ち上がる困難さ億劫さ、そして立ち直った時に思う感謝や満足感、すべてを知っているわけですから、今の高見君にはベストマッチ!だと思ってたんですよね。あー、あの人か!って思った方、もし
いらっしゃいましたら、いつもありがとうございます!!ブラァァア!!


以下本文
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「…ということで、今日の放課後、
 図書室の大掃除をします。
 
 
 文芸部だけではとても終わらないので、
 学級委員、それと…有志の人!

 誰か、やる人――」
「はい」
「おおー、素晴らしい。
 語堂さん、行ってくれる?」
「はい。図書室へは、よく行くので」


…これで、いいのかな……。


片桐 彩子も、高見 直人も居ないサックスパート。そこに居ることが、どんなに心細いことか。それが、昨日の合奏でよくわかった。


彼らだけでなく幾らか歯抜けの合奏は、他の人の音がいつもよりしないから、少しミスをすればすぐに誰のせいかわかってしまう。それを咎められることはないが、新譜のせいかあまりにも間違えてしまったために、気まずい思いをしたし、力不足を実感した。


…1年やって、1人前どころか。
半人前のまま…私には、向いてなかったのかな。…あいつには、結局最後まで認めてもらえなかったな。


…もう、戻ってこない、よね。
あいつ……。



陽ノ下 光も、朝練はしたものの、昼の練習には参加しなかった。彼と近くに居るのに、何も話せない自分が歯痒くて、こんな現実が嫌で、夢であったらどんなにいいか、勇気の神様でも居るのなら、なんとかしてほしいと思う他なかった。


――光ちゃんが上手になると、困るのよ。あいつは。


…どうして?
君の考えてることが、君の苦しみが、全然見えないよ……。


…どうして相談してくれないの、昔みたいに楽しいことも、辛いことも、分けあえるくらい近くに居るのに……。



膝を抱えて体育座りで階段から見ていたのは、グラウンド。まるで古巣を思う、飛べない鳥のよう。



片桐は、ふさぎ込んで学校を休んだまま。
今日のきらめき高校には、サックスの音はしないのだろうか。


いや、そんなことはない。OBの上級生が居る。しかし、皐月は出来れば、練習したくないと考えている。進路も決まって、他にやりたいことがあるわけではない。


…今、テナーサックスを吹けば。
彼は「代わりが居るんだ」って感じるかもしれない。だから…。


いつでも帰ってこれるよう、敢えてあの楽器を吹き慣らさないように配慮しているのだ。だが、オーディションから数日経った今、学校に来たという彼は、結局部活に現れなかった。


…以前、彼はこう言ってくれた。
私は…先輩は、俺の希望なんです、って。それは、私にとってもそう。私にとって彼は、きっかけをくれた、応援してくれた、信じてくれた、最高の後輩だから。あの秋の良い思い出を振り返ると、自然と彼が近くに居たことを、すごく思い出せる。


だから…彼が辛いなら、力になりたい。
何も先輩らしいことを出来なかった私が、まだ校舎に居る内に。



そう思い皐月は、何があったのかを聞いて回った。
オーディションの時、なぜ彼はあんなにもサックスを吹くことが辛いと、練習しても上手くなれないと、激昂していたのかを。


「数日前から様子がおかしかったんです…。

 ここ最近、暗かったし、
 私たちも吹けてないと怒鳴られたりしたし…」
「オーディションで気が立ってたっていうか、
 責任を感じてたのかなって…そう見えたんですけど、
 それだけじゃない気がして…」


語堂たちはそう述べていたし、生徒会の仕事の引継ぎの際には、星川からこんな話を聞けた。


「…俺の何がわかるの、って。
 彼、言ってたんです。

 
 だから…わかってほしかったのかなって。
 思うんです」
「わかってほしい…。
 
 本心や、本質を、ということかしら」
「わかんないんですけど、
 多分、そんな感じかなーって」


たはは、わかんないです、と笑ってごまかす後輩だったが、意外に言っていることは当たっているのかもしれない、と皐月には思えた。この人はよく人を見ている、よく言葉の端々まで聞いているな、と。


…彼が練習でいつも手を抜かなかったのも、熱くとも寒くともいつも外で練習していたのも、吹奏楽部員としての矜持がなせる業…というだけではなかったんだと思う。


…彼にも何か背負うものがあって、それが守れそうもなくて、追いつめられていた…?わからない、でも…後輩に、私たちと同じ悲しみを背負わせたくなんてない。だから私も、最後まで走り切れたんだもの。


…そう、自分を許せず、立ち止まってしまうこと。もう立ち直れないと決めつけて、無為に時間を浪費していくこと。そして、手遅れになってしまうこと。それを、かつての仲間だったみんなも、きっと味わっていた。その地獄から抜け出してほしかったから…だから、あなたのくれたきっかけを、掴もうと思った。


でも、思い返せば…。
手遅れかどうかなんて、やってみなければわからないのかもしれない。…なんて、今はそう思える。


立ち上がろうとしているその時は、いつも苦しくて。もう無理かもしれない、もう少し早く立ち上がっていたら間に合っていたかもしれないのに、なんて。後悔と自己嫌悪と罪悪感で、いっぱいになった…。でも、たった1か月でも、頑張れば良い結果が生まれるんだって、幸運にも示すことができた。


だから、あなたにも…。
同じ後悔を味わってほしくない。あなたがくれたきっかけを、今度は私が示す番…そう思ってる。



そう思い、今日この日の昼休み、階段を上がって1年生の教室まで行こうとする。


「…あっ、皐月せんぱいだ!」
「こんにちは!」
「…こんにちは」
「うわー、やっべマジ美人…」
「あー!あと数日しか皐月先輩を見れないのかぁぁ!」


何やら色々聞こえるが、2年生の階を越えて、彼の居る1年A組へと上がっていく。その途中で、ふと足を止めた。階段の上に立つ長身の後輩が、まるで待っていたかのように背中を丸めていたから。


「…こんにちは」
「こんにちは、八重さん。
  
 …誰か、待っているの?」
「…そういうわけじゃ、ないです。


 …あの……。

 お願いが、あるんです」
「お願い…?
 私、少し急いでいるの。

 だから、今すぐには答えられないかもしれないけど…」
「…彼に……。

 高見君に…伝えてほしいことが、あるんです」
「えっ…?」


すぐに挨拶をして、通り過ぎるはずだった。だが、頭に思い浮かべていた相手の名前が後輩から出てきて、皐月の足は止まらざるを得なくなった。


…あの頃、逃げ出そうとする私を止めてくれたのは…あの人だけじゃない。八重さんにも、支えられたこと…ちゃんと覚えてる。


――この部は、色んな事情や、気持ちを抱えていると思います。

今も苦んで、罪悪感や不安と戦いながら、楽器を吹いている人もたくさん、います…。



…だから、そう言ってくれたあなた自身も、本当は苦しんでいたんじゃないかって。なんとなく、そう感じたわ…。


「…どうして、私に?」
「先輩は…罪悪感に悩まされて、
 無力感に苛まれて、それでも…最後までやりきって、
 結果を…残されました。

 
 だから、先輩なら。
 あの人に…今、出口の無いトンネルに居る
 彼に、明るい未来を…感じさせられるんじゃないかって…
 そう、思うから…です」


…出口の無いトンネル……。

痛いくらいに、すごくしっくりくる言い方。私も、そこに居たから、よくわかる。今、出られたことが未だに信じられないくらい、あの時は終わらない夜に思えた。…溜まった涙で部屋のドアが開かないくらい、泣いたもの。あの時の私に、「未来のあなたは良くなるわ」って言っても、きっと…信じないでしょうね。


「私に、出来ることなら。
 何を…伝えたらいいの……?」 















































動けない。

本当は、廊下の外から幼馴染が見ていたことも知っている。朝の続きの言葉をかけようとしていたのかもしれない、自分を待っているのかもしれない。


――気にしちゃ、だめだよ。


でも自分には、その資格がない。価値がない。だから動けない。それも言い訳なのかもしれない。頑張る価値もないどころか、頑張ったって何も結果なんか出ない。そう思い込んでいるだけなのかもしれない。


もう、わからない。

これがただのミュンヒハウゼンならどんなに楽か。いや、声をかけられたくて、誰かを待っていて、ここに座っているだけかもしれない。自分はやっぱり最低だ。いや、でもこの心の苦しみは本物じゃないか。誰が見ていようが、いまいが。



……苦しい、俺はどうしたらいいの。
どうすればいいんですか。


――自分で決めなきゃ。


…わかってる、でも…失敗したらもう今度こそ俺は許してもらえない、立ち直れない…。



そう、どうせ自分が居なくても世界は廻る。自分なんて居なくていい。なら、消えてしまった方が楽なんじゃないか。でも、そんな世界だからこそ、自分が誰かと一緒に居るためには、自分で勝ち取らなくてはいけない。居場所というものを。



…でも居場所を勝ち取るっていうことは、中学の時みたいに、また誰かを踏み台にして自分だけが息を吸って…ああ、あの時追い出された後輩は、同級生は、今どうしているんだろう、あの時どんな気持ちだったんだろう、ああ…ごめん、本当にごめん……。



やっぱり自分が公の場に立つなんてあっちゃいけない。
自分がいい思いをして、自分が傷つけた人たちが今もどこかで苦しんでいるなんて、そんなの許されるわけがない。


ふらっと立ち上がり、教室を出ようとする。
その時、教室内のスピーカーが校内放送開始のジングルを吐き出した。


生徒の呼び出しです。

 1年A組 高見 直人 君 
 至急、生徒会室まで来てください。


 繰り返します……



疲れ切った風に怪訝そうな顔でスピーカーを見やり、がっくりと肩を落としてため息をつく。放送の声は、間違いなく知っている人のものだったからだ。



……先輩だ…。
怒ってるんだろうな、サックスを二度と吹かないなんて言ったから……。



怒られる。皐月先輩も、中学の時の先輩たちと同じだ。使えない奴だと判断したら非難して、排除を試みる。女だらけの吹奏楽部ではよくあること、だから杭が出ないよう男子部員は静かにしておかないと、すぐに徒党を組んで女子たちに目をつけられ、直接的な罵倒だけでなく陰湿な嫌がらせさえ受けるようになる。



…デカいことばっかり言ってきた罰だ。
謝ろう……。下手に出て、でも期待を裏切った自分が悪いのは確かだから、ちゃんと……。



心の底ではわかっていた。
皐月 優はそんなことをしない。でも、表に出てきているネガティブな自分はため息ばかりついて、思うのだ。ああ、嫌だなぁ、ああ、なんて俺は最低なんだ…。それはあたかも、小さい頃の自分から見えていた親や、中学の頃の先輩が、深層心理に居る物分かりの良い自分を押さえつけているみたいに。


……詩織ちゃんは部活に行ってるよ?あんたは呼び出し?えー?


……マジ使えん、同じことばっかり言わせて。部活辞めんのやったら死ねばいいじゃん。お前居てもウチらが迷惑するだけやし。



廊下を歩く彼の背筋は、まるでそんな言葉を背後に受けすぎて、ハリネズミのようになったがごとく、丸く曲がっていた。ため息を何度もつき、視線を落とし、辛そうに顔を歪めて。


…俺のせいだ、ごめん、ごめんなさい…。


生徒会室前に着いて、扉を開けようとするが、覚悟が決まらない。怖い。責められる云々じゃない、まず先輩と話すことが、怖くて、億劫で、辛い。


…。仕方ない。俺が今までやってきたことの罰だと思うしかない…。



大きく息を吐き、扉を開ける。室内の椅子に座っていた先輩が、綺麗な髪を揺らして立ち上がる。


「急に呼び出して、ご…」
「――すみませんでした!」


立ったまま膝に手を置き、頭を下げて声を張る。皐月が丸い目を更に大きくして戸惑うのも、まったく見ずに。


「すみません……すみません…!」
「ま、待って、落ち着いて」


先輩が近付いてくる。彼女は騒ぎにならないようにドアを閉めようとしたのだが、後輩はそれを恐れ、恐怖に顔を引きつらせて廊下へと後ずさる。


「責めるつもりで呼び出したんじゃないわ!

 …あなたの、力になりたいと思ってる。
 本当よ」
「すみません」
「どうして謝るの、何もあなたは――」
「――…すみません!」
 

目をぎゅっと閉じ、歯を食いしばり、ひたすら謝る後輩。
こんな後輩を、皐月は他に見た事があった。コンクール本番の日にミスをした1年生が、3年生に謝っていたところを。


…尋常じゃないほど追いつめられてる。
様子がおかしかったことや、学校を休んだことは聞いていたけど…こんな精神状態で彼は、あのオーディションの演奏を仕上げてきたのね…。



いたたまれなくなった。頑張っている人が、こんな風に頭を下げて、罪悪感に溺れてしまっていることが。


「…いいの。
 謝りたければ、幾らでも謝ればいいわ。


 でも…それでは、あなたは救われない」
「……」
「以前の私も…そうだった。
 自分を責め続けて、誰に言えばいいかも
 わからない「ごめんなさい」を、うわごとのように
 自分の部屋で繰り返してた。


 でも、何度口走っても、許されることはなかった。
 だって…一番自分を責めているのは、
 何より自分自身だったから」
「…!

 ………」
「…話を聞かせて。高見君。

 あなたがあれだけ練習して仕上げた
 オーディションで、本当に伝えたかったことを」
 

優しく言い聞かせるように、しかし真摯に頼み込むように強い口調を紡ぐ先輩の柔らかい声。しかし声の主もまた、表情を曇らせる。後輩が、実に嫌そうな顔をしているからだ。


…言いたくない、でも先輩の言うことだから逆らえない。話すしかない。そう思っているのかしら…。




図星。頬を怪訝に持ち上げ、眉をひそめ、ため息をつくために開いた口…ひどい顔をした男子は、覇気など微塵も無い声量と張りで、先輩の足元を見て「はい」と答える。だが足は動かない。質問がなければ、それ以上自分からも話そうとしない。


「高見君……。

 大丈夫なの…?
 具合悪いんじゃない?ちゃんと話せる…?」
「はい」
「…。どこを見ているの」
「はい」
「……」


…ああ、嫌だなぁ、早く終わらないかなぁ……。


そんな思考が顔にありありと浮かぶ彼を見ていると、これ以上声をかけることも嫌になる。勝手にしなさい、話したくないのならもういい。自分がこのままセルフネグレクトを続けて手遅れになってから「助けて」といっても、こっちは十分声をかけた、無視をしたのはあなたよ。そんなことを言ってやりたくもなるほど、あまりにもふてぶてしくて、心ここにあらずといった感じで、話していてもとてもじゃないが楽しいとは思えない。


「…とにかく、入って」
「はい」


でも。自分が手遅れにならずに済んだのは、彼の顔をした人に助けられたから。彼と同じ声をした人にもらった言葉に支えられたから。それに自分は、こうなった時にどんなに辛いかを、身をもってよくわかっている。まったく同じ苦しみでなくとも、苦痛に喘いだ時間と悲しみは、共感してやれる。


…あなたは、私を助けてくれた。
でも、あなたが誰にも助けられないなんて。そんなのは…不公平だと思う。恩返しなんて、しようとしてもうまく行かなかったり、独りよがりだったりするものなのかもしれない。でも、自分自身だけでも納得しなくちゃ。たとえあなたを暗い穴倉から引っ張り出せなかったとしても、手は尽くしたんだって…自分に言い聞かせるために。


…利己的かしらね。
でも…立ち上がるかどうかを決めるのは、あなた自身だから。私がどんなに言葉をあげても、それを基に考えて、結論を出すのは、あなた自身。そればっかりは、先輩命令なんかじゃどうしようもないの。


「座って」
「はい」


いつか留学生のことについて話をした書庫の机に向かい合って着くと、なんともいえない沈黙が二人きりの部屋を充満させた。他の生徒会執行部の人間は図書室の掃除に駆り出されているから、ここには他の誰も居ない。


美人の先輩と、その目の前で憮然として疲れ切った顔で下を向いている後輩以外は。


「…高見君。
 
 …オーディションの時、驚いたわ。
 あの時…あなたが必死になって訴えていたことに」
「…。


 すみませんでした」
「…。あなたはあの時…。
 もう自分は上達しない、
 もう二度と楽器を吹きたくない、
 そう言っていた…。

 
 あれは、本心なの?
 だとしたら、いつから…その気持ちを
 隠し持っていたの…?」
「…すみません」


まるで会話にならない。
焦り苛立って、つい皐月は、ため息をついてしまった。


「…!」


それを見逃さなかった後輩は、「やってしまった」と顔を強張らせ、恐怖感に耐えるために何かを握りしめようと、よりどころを探す。


ポケットを掴んだ左手。
この中に入っているのは、幼馴染の忘れ物。


…もう俺はひとりなんだ、もう、もう、同じ悩み、同じストレスで愚痴り合えるあいつはもう居ない。都子、都子、助けて、見捨てないで、おねえちゃん、しお……



――気にしちゃ、だめだよ。


「……」


動悸が酷い。息も絶え絶えになっている。でも肩はちっとも上がらない。染みついた呼吸法で腹が膨らんで、しぼんでを繰り返す。椅子の背もたれに体重をかけて、ぎしりと音を立てて、まばたきをする。



――違うよね。


うさぎさんになりたい。
そうすれば、都子ちゃんとずっと一緒に居られる、邪魔にならない、ずっと一緒。でもそれは、高見 直人じゃない。自分じゃない。


――自分で決めなきゃ。


何を。何を決めることを、自分は怖がっているんだろう。



――トニックで解決したい、再現部のカタルシスを深く味わいたい、プレイヤーがそう思うことに何の罪があるの?



…ああ、そうか。
俺は…次の和音がずっと想像できないんだ。だから怖いんだ。誰ともユニゾンできない、合わす低音も聞こえない、アテにする根音もわからない、いつこの曲が終わるのかも…わからない、だから…。


――頑張りなさいよ…取り返しなさいよ…!


…俺は。この人とどうしたいんだ。
先輩と、俺は、どうありたいんだ。思い出して。…わからない。正解はわからない、けど…不正解は、わかるから……。



中学の頃を思い出して、直人はもう一度だけ首を横に振った。
それから、先輩の顔を見ようとしたが、怖くて、結局先輩の胸元あたりを見て、言った。


「……。

 ずっと。怖かったんです」
「…ゆっくりでいいわ。続けて」
「…みんなが期待してくれる俺と、
 本当の俺とが違い過ぎて。
 
 みんな、いい人だから。
 ずっと騙し続けてることが、
 申し訳なくて。


 いつか本当の自分が、
 みんなとの関係を壊して、みんなを傷つけるのが、
 怖くて…怖くて…」


自分をさらけ出して述懐することも、先輩の顔を見る事も、まだ怖い。


けれど、後ろに立つ何かがずっと、自分のことを励ましてくれているように思えた。


――気にしちゃ、だめだよ。


――きゃははは。さっさと喋れよ、セニョール。



…わかってるよ。
今日は。逃げないから。…多分。




多分……。


つづく





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