きらめき高校吹奏楽部 ~もしきら高に歴代ヒロインがみんな居たら~ 遠ざかる前進
うわああああああああああああマジかあああああああああああっ、あ、拍手ありがとうございましたw
こんばんは。
最悪なんだけど!昇進しましたwwなんなんまた忙しくなるやんかもうーっ!
んで、あとちょっとやね。
あと2、3話?かけて準備を終えたら、すみれちゃん編的なものをスタートしたいと思ってます。定演は、そういう○○編みたいなのを何個かやって、その度に曲目が決まったり曲の完成度が上がったりするようにしたいと思ってます。
その中で、ちょくちょく見せた伊集院くん、華澄さん、響野さん、片桐さん、あとワル男w関係とかの話を同時進行して、それぞれがゴール出来次第順に終わらせていけたらな、とか考えてますが、これはだいぶかかりそうだ…です!w
そしてあとね、近況報告やけど、Switch買いましたw
やりたいゲームがまだなくてソフトを買ってないけどwwこれまだ普通にwiiU現役やなぁ。スイッチにブラウザ機能ないし。
しかも買ったはいいけどやりたいゲームが3DSばっかでやばいw今やってるポケモンでしょ?あとモンハンでしょ?あとなんだ、ああDQMJ3でしょ、それとずっと買おうか迷ってるカービィとメタルマックス!これどうしたらいいんだwスイッチに手がつけられんぞw
スイッチはとりあえずそうですね、FE無双とドラクエ11を狙ってます。DQH1&2もやったことないからやりたいんやけどな。どうしよう
以下本文
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きらめき市への帰りの電車、この人の多い時間に座る席をどうにか確保したにも関わらず、サックスのケースを傍らに置く彼は、お菓子にまったく手をつけなかった。そればかりでなく、口数も殆ど無く、赤井が話しかければ、心ここにあらずといった感じでどうにか言葉を返すのみ。
「…なぁ、おい」
「う、うん?」
「和美ちゃんに、なんか言われたのか…?」
「…いや、別に。何も」
「一応、協力してくれることにはなったんだろ?」
「うん」
「だったらいいじゃねぇか。
何そんな暗くなってんだよ」
「…ごめん。疲れたみたい。
俺も帰ったら爆睡しなきゃね…」
…笑ってるつもりか?それ…。
赤井のいぶかしむような瞳には、顔をひきつらせて窓の向こうを見やる同級生の姿が映る。行きの時と比べて明らかに物憂げな様子。だが何も話そうとしない態度。それは赤井をイライラさせるのに十分だった。
だから、きらめき市に戻ってからも、一応学校に戻るかどうか直人に尋ねられたが、小さな生徒会長は即答で断った。
「あたしは帰るぜ。
腹も空いたし、それに…」
「……」
「いや、なんでもねぇよ。
そんじゃな」
…悪いけど、今のお前と一緒に居たって、ぜんぜん楽しくねーかんな。
去り際、ちらっと一瞥くれて、そんな言葉はぐっと飲み込んだ会長。後を追って「気をつけて」と言葉をかけた直人も、本当は謝るべきかどうか迷ったが、気力が沸かず、結局それだけに留まった。
…爆裂山先生には、協力してもらえることになった。
…でも。この定演が終わったら、俺は…。
行き場の無い、なんともいえない気持ちがため息に変わる。大切なものを失ったかのような喪失感、後戻りできないところまで来てしまったという恐さ、それは何か、最期に納得できる死に場所を探すかのような、畢生の仕事を前にしつつも死の恐怖にジレンマするのに似た、複雑な心境だった。
このことを、誰かに話したい。
話してどうなるわけでもないけれど、この胸の中でちくちくとした痛みと嫌な熱を放ち続ける毒素を、少しでも吐き出してしまいたかった。
だが、交換条件として転入を呑んだなどと話せば、誰もがやるせない思いに捉われるだけだ。彼が犠牲のようになって部が守られたとすれば、残った人は何かしら思うかもしれない。あるいは彼の犠牲もむなしく部が残らないということもありうる。そしていずれにせよ、この犠牲を止める手立ては誰にも持ち合わせがない。
…もしこのことを話して、一番責任感じる奴が居るとしたら…あいつだしな。
この1年何度も聞いてきた高笑いを思い出しながら、殆ど前も見えていないほどの散漫な注意力で、彼は歩いた。冗談でもなく、本当にこの制服でこの楽器を担ぐことは、あとわずかとなってしまった。見えないタイマーが秒単位で動いていることを思うと、まるで余命を宣告されたような気持ちにさせられる。
…これでいいんすよね、先輩。
もしも前に進む方法がこれしかないのなら、俺は何も間違ってない。…仕方ない。もう、あんな思いはごめんだからな。…もう、大人たちの手で理不尽に、大切な仲間や友達が奪われるなんて、そんなのは…。
まだ、正直なところ事態がすべて飲み込めていない。
これからひびきの高校に通うということが、どういうことなのか。
敬愛した人たちとの日々から別離すること。かつてあれほど熱望した明日がもう来なくなること。再会した幼馴染や、腐れ縁の幼馴染、そしてずっと言いたいことを言えないままのお隣さんとも、同じ制服を着ることはないということ。
心のどこかでは薄々わかっている。
だが、その重さがまだわからない。得たものも大きかったせいか、失うものの大きさがまだ見えてこないのだ。
…ひびきのの吹部だって悪くなかったじゃんか。
校舎もおしゃれで綺麗で、光の言う通り気持ちよさげな坂道通って学校行きゃあ、毎日…。
……。
そういう問題じゃ、ないだろ…。
辺りはもう暗くなりつつある時間帯、それでも目視できる大きな校庭の樹と、さぁおいでとばかりに優しく逞しげに腕を広げた白亜の校舎。
それを前にして、「私立きらめき高校」の看板が書かれた校門付近、立ち尽くす。
……。なんも言えない。
あの樹の伝説も、結局俺には関係ないまま、終わるんだな…。いや、もう、そういう話じゃない。今は…。
とても、みんなの前で平静を装える自信がない。
だが、それでも持ち帰った戦果を報告してやらないことには、果報を待つみんなの心境も落ち着かないだろう。そう思い、境界線を跨いだ。
校舎までの一本道。
自然と猫背になった状態で歩いていると、ズボンのポケットで振動を感じた。爆裂山と話す際、あるいは電車に乗った際に迷惑になってはいけないので、マナーモードにしていたスマホを出して、通知を見る。
「着信 陽ノ下 光」
正直なところ、無視しようかとも思った。
平静を装えずにまともに話せなかったら、また心配されるかもしれないから。だが、もしかしたらもしかする。こないだの不良が、直人と一緒に居たからと、光を襲っていたりする可能性も、なくもない。
だから敢えて、ややあって通話に応じた。
「もしもし」
[もしもし!直人君?
こっち、戻ってくるんだよね?]
他意はないのはわかるが、無形の傷口が騒ぐ。もう戻って来れない状態になる…そんなことは電話で言えるはずもなく、数秒黙った後、答えた。
「…まだ学校?」
[うん!
…ちょっと大変なこともあってさぁ…]
「大変なこと?」
[うん…。
とにかく、戻ってくるなら待ってるね!
帰り、気をつけてね!]
「ああ。ありがと。
じゃあ」
通話を切った後、思う。…一緒に帰ろう的な空気になるんだろうな。たぶん都子も居るだろうし、ちょっとしんどいな…。
今日ばかりはちょっときついものがある。
用事があると言って抜けてしまおうか。いや、あの不良たちのことを考えると、そういうわけにもいかないか。無声のため息が白く立ち昇り、誰にも言えない悩みは空に消えた。
…っつか、大変なことって、なんだろ。
また定演のことや華澄先生のことで何かあったんだとしたら……いっそ、定演が完全にだめってことになれば。そしたら、俺はあっちに行かずに済むのか…いや、何考えてんだ俺は…それじゃ吹部もなくなる、全然意味ねーじゃん…。
ぐちゃぐちゃの思考は、今にもため息とともにこぼしてしまいそう。それをどうにか、いつもの深い呼吸で抑え、校舎に入る。校舎の中では、未だ合唱部の練習している声が聞こえてくる。理科棟へ入って階段へ上がると、ソプラノサックスの音やトロンボーンの音もしぶとく粘りを見せているのがわかった。
…大変なことって、何があったんだろ…。
自分にも大変なことがあったし、これまで大変なことなら何度も経験したこの学校だから、並大抵のことならもう驚けない。などと思いながら、重い胸中を引きずって4階まで上がった直人だったが、音楽室前の廊下で聞いた悲報は、十二分に大変なことといえるそれだった。
「あっ…直人君…!」
「……。
ただいま。…あの。なんか…あったの?」
「う、うん。
ユーフォの橘さんが。
階段の一番上から落ちちゃって…」
「えっ。
で、だいじょぶなの?」
「それが全然歩けなくって、救急車が来て…」
「……マジかよ…」
さすがにいつもの笑顔も引っ込んだ、廊下で練習中だったところの元陸上部。直人もまた、よくない知らせに顔をしかめていると、後ろから「あ の」とゆっくり話しかけられた。
「こ ん ば ん は」
「あ、ああ。こんばんは、古式さん」
「は い。
あ の、も し よ ろ し け れ ば、
明 日、み なさ ん で 橘 さ ん の お 見 舞 い に 行 こう と 思 う の で、
高 見 さ ん も 如 何 で し ょ う か」
こちらも、さすがにいつもの陽だまりみたいに暖かい自然な笑みは無い。古式不動産の令嬢に、高見家の長男は、かつてホームステイに来ていた金髪の家族みたく、うんうんと頷いて、即答した。
「…ああー…。
そうだね…。うん。行くよ」
「なんともないといいよね…」
「ああ…」
「心 配 で す。
と て も 責 任 感 の 強 い 方 な の で、
こ の 時 期 に ケ ガ を さ れ た こ と に、
負 い 目 を 感 じ て お ら れ る で し ょ う か ら…」
「その辺も、大丈夫って言ってあげなきゃな…。
…歩けないぐらい痛めてたらしいけど、
ほんとに大丈夫なのかな。
マジでやばいよな…」
心配と不安が筆となり描く休符を、練習熱心な部員の出す音だけが埋めていく。その休符が数秒続いた時、音楽室の扉が開いて、突如、生徒会書記が声を挙げた。
「あっ、高見君!」
「ただいま」
「おかえり!
どうだった?爆裂山先生!
…あっ、中に藤崎さんたちも居るから、
入って入って!」
「ああ、うん」
促されて、開いた扉の向こうの暖かい空気が直人に手招きする。彼はひとまず光や古式に「それじゃ」と短くかすれ気味に言い残し、音楽室内に入った。
それから、授業用の黒板の傍らに置かれた指揮台付近に集まった、詩織や星川、それから“本物の”白雪 美帆らが集まるところへ、歩いていく。
「…直人君」
「ただいま」
「おかえりなさい」
「…色々、やばかったらしいね」
「ええ…。
なんともないといいけれど…」
「ああ…。ほんとな…。
…こっちはとりあえず、OKもらってきた」
不幸中の幸い、といった感じで安堵の息と「よかったぁ」が思わず漏れる。また、助力をお願いしていたのか、妖精さんへの感謝の気持ちも思わず述べられていたり。そんな様子を見ると、何故か、自分がこの輪から遠いものに思えて、直人の中で、暗い気持ちが駆け巡った。
「――転入の件じゃが。
お主が本当に前向きに考えてくれとるなら、
ワシも本気にしてしまうぞ」
「…そうじゃなきゃ自分の誠意が伝わらないんなら、
前しか向く気はありません」
あの時後退していれば、話は冗談や喩えの域を出なかったのではないか。だが、もしあれを断って協力を惜しまれでもしたら、今、自分の一番守りたいものを失うかもしれない。そう、自分が人生を賭けるぐらいの意気込みを見せていれば、あの人も生半可な気持ちで協力したりしないのではないか…という、外部の校長に対しての疑念が、無かったわけではないのだ。
どちらかというと信頼できる大人なのは間違いない。
だが、かつて高見 直人の大事なものを奪った相手も、また“大人”だった。
かつてひびきの市が市政になる前、ひびきの町という名だった頃、そこに名門吹奏楽の土壌を作った実力者…そういう人が、審査員席に座って我が子可愛さに不正を行った可能性は、限りなく黒い。それと同じく爆裂山 和美もまた実力者であるからこそ、直人の中で、完全に赤い警告のランプが消えてくれなかったのだ。
「――いつもきらめき高校に代表の座を
取られてしもうてのう」
全校集会でのあの冗談みたいな発言も、また不味かった。このままきらめき高校の吹奏楽部がなくなれば…と思っているのではないかと疑うソースになってしまったのだ。だが、全校集会で彼らを救ったのもまた確か。結局、爆裂山本人が疑わしいというより、直人が業界の大人に大して異様に過敏になってしまっていることが、自爆スイッチに指をかけてしまったのかもしれない。
ただ、そこまでわかっていても、彼には何故か、こう思えてならなかった。…今、やりすぎてやりすぎることなんてない。少しでも可能性上げれるんなら、それにこしたことない。と。
…結局、俺に賭けられるものなんて、今までやってきたことだけ。金だって出せないし、権力なんてない。だったら、それを賭けずに何か得ようとすること自体、無理なのかもしれない。…そうだよな……。
「来週の月曜には、爆裂山先生が動いてくれる。
OKになったら、また赤井さんを通じて連絡してくれるって。
そしたら、本格的に広告・協賛金も集められる。
…多分渡井とかもスタンバってるだろうから、
早く伝えてあげないとな」
「よかった!
じゃあこれでほんとのほんとに
スタートラインだね!」
「ええ…」
「…?藤崎さん、どうかしたの?」
浮かない返事をする学園のマドンナは、尋ねられてから口許にやった手をのけて、不安を口にする。それは、直人も爆裂山から言われたことだった。
「…定期演奏会を開く準備は、
これで始められると思う。
でも、麻生先生が戻ってきてくれるかどうかは、
また別なんじゃないかしら…」
「えっ、どういうこと…?」
「演奏会が出来ないから責任を取って、
先生が顧問を辞められる、っていう
噂だったのよね?」
「う、うん」
「……」
「それが演奏会を開くことによって解決したとしても…。
…先生自身の気持ちはどうなのかな。
色々と整理がついていないところも
多いんじゃないかと思うし…」
…顧問を続けたいと思わないかもしれない。
その先を口にしようとした時、お隣さんのサックス吹きが、口を挟んできた。「それは、今までと一緒だろ」と。
「…一緒?どういうこと?」
「…今までだって、先生は勝ち目の無い舞台や
望みの薄い舞台に、ちゃんと付き合ってくれた。
全校集会だってそう。
文化祭も、アンコンも。間に合うかわかんないのに
期日の中でちゃんと仕上げようとしてくれたじゃん。
いつも不安とは背中合わせだったと思う。
だから。その不安を、俺たちが少しでも多く肩代わり
できるようにしなくちゃいけないんじゃないの。
…やっとウチも、吹部らしくなってきたんだから。
…んで、それが伝わるかどうか。
俺たちがどう頑張っても背負える負担には限りがある。
それでも先生がもう重いっていうなら、それは仕方ない。
だからなんつうか。
どんな曲をやることにしました、とか。
こういう企画をこの曲でやります、とか。
こういうプログラム順にします、とか。
ちくいち一応先生に報告していこうよ。
棒振ってくれるかはわかんないとしても」
動揺してまともに話せないかもしれない。そう思っていたのに、仲間を前にすると、彼の中の「吹部」である自分が、心ここにあらずで虚ろになっていた自分を押しのけて前に出てきてしまった。
…こんな流れ。相変わらずだよ。
きら高じゃなきゃ、ありえないって…。
そう思うと、心のどこかでいつもの自分が苦笑を浮かべるのがわかった。その中に、橘 恵美もどうにか入れてやりたい。そんな思いもこみ上げてくる。無事であってほしいと。
黒い不安の色と熱い意欲が混ざって、思わず怪訝に顔をしかめる。なぜか涙してしまいそうになるのを、どうにか堪えて唇をぎゅっとかみ締めた彼の顔を黙って見ながら、女の子たちはその話を聞いた。
「そうだね…うん、うん。
私たちだけじゃない。
今までみたいに先生とも、部活していかなきゃいけないよね!」
そう言った星川は密かに思った。さっすがミスター吹部、なんて。
…あんまり他の吹奏楽部さんを見たことないからわからないけど、ほんと、君って根っからの吹部野郎、って感じだよね。熱血!…って感じじゃないし、冷めてるみたいに見える時もあるけど、ほんとはすっごく練習熱心で。文化部だけど、運動部みたいな。そういう感じ、ほんと“らしい”よね。
今日は部の空気も悪かったせいか、久々に選挙ポスターと同様の気持ちの良い笑みが飛んだ。また、白雪も、同意してうんうん頷く。
「私も、演奏会の進行や企画、
しっかり書いていきますので。
曲の出来だけでなく、そうした部分も
滞りなく進めて、先生の不安を少しでも
取り除けるよう、頑張りたいです」
「…うん。
お願い。よろしく」
だが、またも詩織ひとりだけは、歯切れの悪い様子。
ただこれは、彼の言うことが著しく間違っていると思うから故の沈黙ではなかった。その沈黙を破り、白雪と星川の声が止んだところで、詩織は「あの」と、切り出した。今までも言おう言おうと思っていたことを。
「直人君、その…」
「…?なに…?」
「今、話し合いの時って、
私が前に出ているんだけど…。
でも…本当は、あなたがここに立った方が
いいんじゃないかって、思うの」
「…え?なんで。
…もしかして、なんか言われたの?
詩織が仕切るのが嫌だ的なこと」
「う、ううん!そうじゃないけど…。
ただ、私はその方がいいと思う」
詩織は、以前、光にもその考えを話したことがある。突然の思いつきでこんなことを言うわけではない。だが、直人には、あまりにもこの提案がぴんと来なかった。それほどに、優等生のお隣さんが前に立つのは、望ましいことだと思っていたのだ。
「…何言ってんの。
そんなわけないじゃん。
俺に詩織以上のことできるわけ…」
「そんなことない。
この部には、あなたに誘われて入部した人や、
あなたを目標にしている人も数多く居るわ。
今までの舞台でも前に出たり、
アンコンでもサックスのみんなと結果を
出して来たし…パットの演奏会の時も、
みんなを引っ張るようなアイディアを出してくれた。
…今はとても辛い状況だけど、
でも、きっと。そんなあなたの諦めない姿勢や、
吹奏楽部員としての在り方に、
希望を見出す人も多いと思うの。
だから。あなたがいつも通りに頑張ってることを、
少しだけ前に出てやるだけでいいと思う。
…みんなを、引っ張ってあげてくれないかしら。
もちろん、あなたに全部任せるわけじゃない。
私も、星川さんやみんなも、協力は惜しまないわ」
「……は?
いやいやいや、何、それ。
待って。俺がそんな「部長」みたいなこと…
できるわけねーっしょ。
ね?星川さん」
直人が苦笑気味に詩織の言葉を阻むと、A組の学級委員は表情を曇らせる。が、彼に同意を求められた星川も、直人の冗談混じりなそれに、首をかしげてしまう。
「んー…でも、いいんじゃないかな」
「は??」
「だって、そりゃ高見君は藤崎さんみたいに
優等生!って感じじゃないけど、
部活ではちゃんとしてるもん。
自分のことだけじゃなくて、
色んな人教えたり、話し合いでいい意見出したり、
あっ、あと、打楽器運ぶ時とかも結構重い楽器率先して
手伝ってるし!」
…すっげーよく見てんなぁ。
さっきまでの暗い気持ちが吹き飛ぶような気持ちの良い笑みと、褒め言葉を受け取って、また苦笑が出る。こうなると白雪も他の2人に同調して、直人に前へ出ることを薦めるようになってしまう。
だが、そんな期待に、どうしても応えられない理由が、彼にはあった。
元名門の名を引き継いだこの部の名前を汚さないため、ズボンを下げられなくなるとか、上着のボタンも閉めずにいられなくなるとか、そんなレベルの話ではない。
「……。いや。
ないない。マジでそういうの、ないから。
だいたいそういうさ、俺が好きでやってること
勝手に持ち上げられて、希望だなんだとか言われても
全然意味わかんないし。
悪いけど今までやってきたことは、
別に誰かに見せたりしたいとか
モテたいとか思ってポイント稼ぎのためにやってたんじゃないから」
「なっ、そんなこと…一言も言ってないじゃない。
…不安なのはわかるわ。
でも、お願いだからそんな、憎まれ口を叩いて
わざと突き放すようなこと、言わないで」
学校中でも最高レベルに綺麗で白い顔が、悲しげに歪む。その言い様は、またも星川の人を見る目に、よく映った。…もしかして、昔っから高見君のそういうところ、よく見てきたのかな、と。
だが、顔も向きも逸らした魔法使いは、かつての姫君の顔も見ず、首を横に振るばかり。
…やっと言い争いなんてせずに、小さい頃みたいに同じことを一緒に頑張れるのに。とか、言いたそうな顔してんな。でも…。
「…いやいやいや無理無理。
俺、悪いけど誰かさんみたいに完璧じゃないから。
できないことばっかだし自分のことだけで精一杯なんだよね」
「そんな、そういう言い方って酷いよ。
高見君らしくない」
「……らしいって。
…星川さんに何がわかんの?
俺の。
俺が毎日何のためにこいつを吹いてるかなんて…」
そこまで言いかけて、はっとした。この場に居ない方のお隣さんの声が、何故か脳裏で聞こえた気がしたのだ。…だめ!と。
「………ごめん。
ほんと。言い過ぎた。
とりあえず悪いけど俺には、そういうのはできないから。
じゃあ…」
憮然とした蒼白な真顔を引きずって、「こいつ」をかるい直し、いそいそとその場を立ち去ろうとする。中学時代に自らの血肉に通った、攻撃的な性。それが、敬愛する人たちに雨を降らせて、今みたいな悲しい表情に変えてしまうところを、見ないようにするかのように。
「…直人君!」
その背を追いかける声に、振り返らず、立ち止まる。
「今すぐじゃなくてもいいから。
ゆっくり考えてみて」
だが、もうその声にも彼は応えなかった。首は振り向こうとするかのように何かうろたえて動いたが、結局後ろを向かないまま、無言で彼は音楽室を立ち去ってしまう。
「直人君…?」
扉を開けて出てきたところ、陽ノ下 光が練習を終えようとしていたらしく、マウスピースにキャップを填めていたが、彼女のそんな声にも、直人は返答をよこさなかった。
追いかける視線の向こう、いつか全校集会で見た後ろ姿が、やけに早足で遠のいていくのを、光は不安げに、角を曲がって見えなくなるまで見届けた。
…俺が前に出て仕切る?
……そりゃ、できなくはないよ、やれっていわれたらやるかもしれない、今のきら高のみんなとなら。
でも……俺は、いつまでもここに居られない。
この定演が終わったら…あっちに行かなきゃいけない、みんなの敵になるようなことも、あるってことじゃん…。
……無責任に背負ったりできない。
階段を降り、名残惜しく響く真面目な部員の練習の音から遠ざかる。そうして歩いて、校舎から出る頃には、徐々に先行きへの不安の中へと、後悔が入り混じり始めた。言ってはいけないことを口走りかけたこと、言いすぎたこと、詩織たちを暗い表情にしてしまったこと…。
思わずため息が出る。
しかし今後、定期演奏会開催までは、誰にも言えない思いを抱えながら頑張らなくてはならないのだ。また、誰かに当り散らしてしまうことも、短気な自分ならあるかもしれない。その時に毎回、都子にいさめてもらえるとは限らない。
…誰かに愚痴れたらな、こういうの。
それでなんとかなるわけじゃなくても、なんとなく…。
……八重さんとか華澄さんも、こういう気持ちだったのかな。
今、初めて気付いた。
親の心子知らずなどとよく言うが、実際に子を持ってみないと、誰も同じ苦しみはわからないのだろう。彼もまた、同じように「誰にもいえないこと」を持つことでようやっと、他者の苦しみをリアルに想像することができた。
…先生。あれから、どうしてんのかな。
最近はいつも廊下ですれ違う時も、ぎこちない笑みを申し訳なさそうに浮かべてくる先生。これまでの優しい笑みになれなかったあのなりそこないの笑みでも、大きな傷を庇いながらのそれだと思うと、やっぱり思う。強いなと。
…なんとなく。
華澄さんと、ちゃんと話したいな。もう俺だって、遊んで遊んでって言ってたガキじゃ、ないんだから…。
そう思うと、話し相手の居ない帰り道、勝手に手が動いた。もう殆ど、冷静な思考ではない。音楽室での後悔と、隣町の校長室での憂慮。それが彼の中のストッパーを決壊させ、ケータイを弄るのに困らない手袋も相俟って、いつの間にやら、やってしまっていた。
「発信中 麻生 華澄」
耳に当てたケータイの画面にはそう書かれている。だが、十中八九、応じてはくれないだろうと心のどこかでは思っていた。
なのに。
[……もしもし?]
「…もしもし。
今、だいじょぶですか?」
[う、うん。どうしたの…?]
「……。
あのさ、先生」
多分、つづく
こんばんは。
最悪なんだけど!昇進しましたwwなんなんまた忙しくなるやんかもうーっ!
んで、あとちょっとやね。
あと2、3話?かけて準備を終えたら、すみれちゃん編的なものをスタートしたいと思ってます。定演は、そういう○○編みたいなのを何個かやって、その度に曲目が決まったり曲の完成度が上がったりするようにしたいと思ってます。
その中で、ちょくちょく見せた伊集院くん、華澄さん、響野さん、片桐さん、あとワル男w関係とかの話を同時進行して、それぞれがゴール出来次第順に終わらせていけたらな、とか考えてますが、これはだいぶかかりそうだ…です!w
そしてあとね、近況報告やけど、Switch買いましたw
やりたいゲームがまだなくてソフトを買ってないけどwwこれまだ普通にwiiU現役やなぁ。スイッチにブラウザ機能ないし。
しかも買ったはいいけどやりたいゲームが3DSばっかでやばいw今やってるポケモンでしょ?あとモンハンでしょ?あとなんだ、ああDQMJ3でしょ、それとずっと買おうか迷ってるカービィとメタルマックス!これどうしたらいいんだwスイッチに手がつけられんぞw
スイッチはとりあえずそうですね、FE無双とドラクエ11を狙ってます。DQH1&2もやったことないからやりたいんやけどな。どうしよう
以下本文
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きらめき市への帰りの電車、この人の多い時間に座る席をどうにか確保したにも関わらず、サックスのケースを傍らに置く彼は、お菓子にまったく手をつけなかった。そればかりでなく、口数も殆ど無く、赤井が話しかければ、心ここにあらずといった感じでどうにか言葉を返すのみ。
「…なぁ、おい」
「う、うん?」
「和美ちゃんに、なんか言われたのか…?」
「…いや、別に。何も」
「一応、協力してくれることにはなったんだろ?」
「うん」
「だったらいいじゃねぇか。
何そんな暗くなってんだよ」
「…ごめん。疲れたみたい。
俺も帰ったら爆睡しなきゃね…」
…笑ってるつもりか?それ…。
赤井のいぶかしむような瞳には、顔をひきつらせて窓の向こうを見やる同級生の姿が映る。行きの時と比べて明らかに物憂げな様子。だが何も話そうとしない態度。それは赤井をイライラさせるのに十分だった。
だから、きらめき市に戻ってからも、一応学校に戻るかどうか直人に尋ねられたが、小さな生徒会長は即答で断った。
「あたしは帰るぜ。
腹も空いたし、それに…」
「……」
「いや、なんでもねぇよ。
そんじゃな」
…悪いけど、今のお前と一緒に居たって、ぜんぜん楽しくねーかんな。
去り際、ちらっと一瞥くれて、そんな言葉はぐっと飲み込んだ会長。後を追って「気をつけて」と言葉をかけた直人も、本当は謝るべきかどうか迷ったが、気力が沸かず、結局それだけに留まった。
…爆裂山先生には、協力してもらえることになった。
…でも。この定演が終わったら、俺は…。
行き場の無い、なんともいえない気持ちがため息に変わる。大切なものを失ったかのような喪失感、後戻りできないところまで来てしまったという恐さ、それは何か、最期に納得できる死に場所を探すかのような、畢生の仕事を前にしつつも死の恐怖にジレンマするのに似た、複雑な心境だった。
このことを、誰かに話したい。
話してどうなるわけでもないけれど、この胸の中でちくちくとした痛みと嫌な熱を放ち続ける毒素を、少しでも吐き出してしまいたかった。
だが、交換条件として転入を呑んだなどと話せば、誰もがやるせない思いに捉われるだけだ。彼が犠牲のようになって部が守られたとすれば、残った人は何かしら思うかもしれない。あるいは彼の犠牲もむなしく部が残らないということもありうる。そしていずれにせよ、この犠牲を止める手立ては誰にも持ち合わせがない。
…もしこのことを話して、一番責任感じる奴が居るとしたら…あいつだしな。
この1年何度も聞いてきた高笑いを思い出しながら、殆ど前も見えていないほどの散漫な注意力で、彼は歩いた。冗談でもなく、本当にこの制服でこの楽器を担ぐことは、あとわずかとなってしまった。見えないタイマーが秒単位で動いていることを思うと、まるで余命を宣告されたような気持ちにさせられる。
…これでいいんすよね、先輩。
もしも前に進む方法がこれしかないのなら、俺は何も間違ってない。…仕方ない。もう、あんな思いはごめんだからな。…もう、大人たちの手で理不尽に、大切な仲間や友達が奪われるなんて、そんなのは…。
まだ、正直なところ事態がすべて飲み込めていない。
これからひびきの高校に通うということが、どういうことなのか。
敬愛した人たちとの日々から別離すること。かつてあれほど熱望した明日がもう来なくなること。再会した幼馴染や、腐れ縁の幼馴染、そしてずっと言いたいことを言えないままのお隣さんとも、同じ制服を着ることはないということ。
心のどこかでは薄々わかっている。
だが、その重さがまだわからない。得たものも大きかったせいか、失うものの大きさがまだ見えてこないのだ。
…ひびきのの吹部だって悪くなかったじゃんか。
校舎もおしゃれで綺麗で、光の言う通り気持ちよさげな坂道通って学校行きゃあ、毎日…。
……。
そういう問題じゃ、ないだろ…。
辺りはもう暗くなりつつある時間帯、それでも目視できる大きな校庭の樹と、さぁおいでとばかりに優しく逞しげに腕を広げた白亜の校舎。
それを前にして、「私立きらめき高校」の看板が書かれた校門付近、立ち尽くす。
……。なんも言えない。
あの樹の伝説も、結局俺には関係ないまま、終わるんだな…。いや、もう、そういう話じゃない。今は…。
とても、みんなの前で平静を装える自信がない。
だが、それでも持ち帰った戦果を報告してやらないことには、果報を待つみんなの心境も落ち着かないだろう。そう思い、境界線を跨いだ。
校舎までの一本道。
自然と猫背になった状態で歩いていると、ズボンのポケットで振動を感じた。爆裂山と話す際、あるいは電車に乗った際に迷惑になってはいけないので、マナーモードにしていたスマホを出して、通知を見る。
「着信 陽ノ下 光」
正直なところ、無視しようかとも思った。
平静を装えずにまともに話せなかったら、また心配されるかもしれないから。だが、もしかしたらもしかする。こないだの不良が、直人と一緒に居たからと、光を襲っていたりする可能性も、なくもない。
だから敢えて、ややあって通話に応じた。
「もしもし」
[もしもし!直人君?
こっち、戻ってくるんだよね?]
他意はないのはわかるが、無形の傷口が騒ぐ。もう戻って来れない状態になる…そんなことは電話で言えるはずもなく、数秒黙った後、答えた。
「…まだ学校?」
[うん!
…ちょっと大変なこともあってさぁ…]
「大変なこと?」
[うん…。
とにかく、戻ってくるなら待ってるね!
帰り、気をつけてね!]
「ああ。ありがと。
じゃあ」
通話を切った後、思う。…一緒に帰ろう的な空気になるんだろうな。たぶん都子も居るだろうし、ちょっとしんどいな…。
今日ばかりはちょっときついものがある。
用事があると言って抜けてしまおうか。いや、あの不良たちのことを考えると、そういうわけにもいかないか。無声のため息が白く立ち昇り、誰にも言えない悩みは空に消えた。
…っつか、大変なことって、なんだろ。
また定演のことや華澄先生のことで何かあったんだとしたら……いっそ、定演が完全にだめってことになれば。そしたら、俺はあっちに行かずに済むのか…いや、何考えてんだ俺は…それじゃ吹部もなくなる、全然意味ねーじゃん…。
ぐちゃぐちゃの思考は、今にもため息とともにこぼしてしまいそう。それをどうにか、いつもの深い呼吸で抑え、校舎に入る。校舎の中では、未だ合唱部の練習している声が聞こえてくる。理科棟へ入って階段へ上がると、ソプラノサックスの音やトロンボーンの音もしぶとく粘りを見せているのがわかった。
…大変なことって、何があったんだろ…。
自分にも大変なことがあったし、これまで大変なことなら何度も経験したこの学校だから、並大抵のことならもう驚けない。などと思いながら、重い胸中を引きずって4階まで上がった直人だったが、音楽室前の廊下で聞いた悲報は、十二分に大変なことといえるそれだった。
「あっ…直人君…!」
「……。
ただいま。…あの。なんか…あったの?」
「う、うん。
ユーフォの橘さんが。
階段の一番上から落ちちゃって…」
「えっ。
で、だいじょぶなの?」
「それが全然歩けなくって、救急車が来て…」
「……マジかよ…」
さすがにいつもの笑顔も引っ込んだ、廊下で練習中だったところの元陸上部。直人もまた、よくない知らせに顔をしかめていると、後ろから「あ の」とゆっくり話しかけられた。
「こ ん ば ん は」
「あ、ああ。こんばんは、古式さん」
「は い。
あ の、も し よ ろ し け れ ば、
明 日、み なさ ん で 橘 さ ん の お 見 舞 い に 行 こう と 思 う の で、
高 見 さ ん も 如 何 で し ょ う か」
こちらも、さすがにいつもの陽だまりみたいに暖かい自然な笑みは無い。古式不動産の令嬢に、高見家の長男は、かつてホームステイに来ていた金髪の家族みたく、うんうんと頷いて、即答した。
「…ああー…。
そうだね…。うん。行くよ」
「なんともないといいよね…」
「ああ…」
「心 配 で す。
と て も 責 任 感 の 強 い 方 な の で、
こ の 時 期 に ケ ガ を さ れ た こ と に、
負 い 目 を 感 じ て お ら れ る で し ょ う か ら…」
「その辺も、大丈夫って言ってあげなきゃな…。
…歩けないぐらい痛めてたらしいけど、
ほんとに大丈夫なのかな。
マジでやばいよな…」
心配と不安が筆となり描く休符を、練習熱心な部員の出す音だけが埋めていく。その休符が数秒続いた時、音楽室の扉が開いて、突如、生徒会書記が声を挙げた。
「あっ、高見君!」
「ただいま」
「おかえり!
どうだった?爆裂山先生!
…あっ、中に藤崎さんたちも居るから、
入って入って!」
「ああ、うん」
促されて、開いた扉の向こうの暖かい空気が直人に手招きする。彼はひとまず光や古式に「それじゃ」と短くかすれ気味に言い残し、音楽室内に入った。
それから、授業用の黒板の傍らに置かれた指揮台付近に集まった、詩織や星川、それから“本物の”白雪 美帆らが集まるところへ、歩いていく。
「…直人君」
「ただいま」
「おかえりなさい」
「…色々、やばかったらしいね」
「ええ…。
なんともないといいけれど…」
「ああ…。ほんとな…。
…こっちはとりあえず、OKもらってきた」
不幸中の幸い、といった感じで安堵の息と「よかったぁ」が思わず漏れる。また、助力をお願いしていたのか、妖精さんへの感謝の気持ちも思わず述べられていたり。そんな様子を見ると、何故か、自分がこの輪から遠いものに思えて、直人の中で、暗い気持ちが駆け巡った。
「――転入の件じゃが。
お主が本当に前向きに考えてくれとるなら、
ワシも本気にしてしまうぞ」
「…そうじゃなきゃ自分の誠意が伝わらないんなら、
前しか向く気はありません」
あの時後退していれば、話は冗談や喩えの域を出なかったのではないか。だが、もしあれを断って協力を惜しまれでもしたら、今、自分の一番守りたいものを失うかもしれない。そう、自分が人生を賭けるぐらいの意気込みを見せていれば、あの人も生半可な気持ちで協力したりしないのではないか…という、外部の校長に対しての疑念が、無かったわけではないのだ。
どちらかというと信頼できる大人なのは間違いない。
だが、かつて高見 直人の大事なものを奪った相手も、また“大人”だった。
かつてひびきの市が市政になる前、ひびきの町という名だった頃、そこに名門吹奏楽の土壌を作った実力者…そういう人が、審査員席に座って我が子可愛さに不正を行った可能性は、限りなく黒い。それと同じく爆裂山 和美もまた実力者であるからこそ、直人の中で、完全に赤い警告のランプが消えてくれなかったのだ。
「――いつもきらめき高校に代表の座を
取られてしもうてのう」
全校集会でのあの冗談みたいな発言も、また不味かった。このままきらめき高校の吹奏楽部がなくなれば…と思っているのではないかと疑うソースになってしまったのだ。だが、全校集会で彼らを救ったのもまた確か。結局、爆裂山本人が疑わしいというより、直人が業界の大人に大して異様に過敏になってしまっていることが、自爆スイッチに指をかけてしまったのかもしれない。
ただ、そこまでわかっていても、彼には何故か、こう思えてならなかった。…今、やりすぎてやりすぎることなんてない。少しでも可能性上げれるんなら、それにこしたことない。と。
…結局、俺に賭けられるものなんて、今までやってきたことだけ。金だって出せないし、権力なんてない。だったら、それを賭けずに何か得ようとすること自体、無理なのかもしれない。…そうだよな……。
「来週の月曜には、爆裂山先生が動いてくれる。
OKになったら、また赤井さんを通じて連絡してくれるって。
そしたら、本格的に広告・協賛金も集められる。
…多分渡井とかもスタンバってるだろうから、
早く伝えてあげないとな」
「よかった!
じゃあこれでほんとのほんとに
スタートラインだね!」
「ええ…」
「…?藤崎さん、どうかしたの?」
浮かない返事をする学園のマドンナは、尋ねられてから口許にやった手をのけて、不安を口にする。それは、直人も爆裂山から言われたことだった。
「…定期演奏会を開く準備は、
これで始められると思う。
でも、麻生先生が戻ってきてくれるかどうかは、
また別なんじゃないかしら…」
「えっ、どういうこと…?」
「演奏会が出来ないから責任を取って、
先生が顧問を辞められる、っていう
噂だったのよね?」
「う、うん」
「……」
「それが演奏会を開くことによって解決したとしても…。
…先生自身の気持ちはどうなのかな。
色々と整理がついていないところも
多いんじゃないかと思うし…」
…顧問を続けたいと思わないかもしれない。
その先を口にしようとした時、お隣さんのサックス吹きが、口を挟んできた。「それは、今までと一緒だろ」と。
「…一緒?どういうこと?」
「…今までだって、先生は勝ち目の無い舞台や
望みの薄い舞台に、ちゃんと付き合ってくれた。
全校集会だってそう。
文化祭も、アンコンも。間に合うかわかんないのに
期日の中でちゃんと仕上げようとしてくれたじゃん。
いつも不安とは背中合わせだったと思う。
だから。その不安を、俺たちが少しでも多く肩代わり
できるようにしなくちゃいけないんじゃないの。
…やっとウチも、吹部らしくなってきたんだから。
…んで、それが伝わるかどうか。
俺たちがどう頑張っても背負える負担には限りがある。
それでも先生がもう重いっていうなら、それは仕方ない。
だからなんつうか。
どんな曲をやることにしました、とか。
こういう企画をこの曲でやります、とか。
こういうプログラム順にします、とか。
ちくいち一応先生に報告していこうよ。
棒振ってくれるかはわかんないとしても」
動揺してまともに話せないかもしれない。そう思っていたのに、仲間を前にすると、彼の中の「吹部」である自分が、心ここにあらずで虚ろになっていた自分を押しのけて前に出てきてしまった。
…こんな流れ。相変わらずだよ。
きら高じゃなきゃ、ありえないって…。
そう思うと、心のどこかでいつもの自分が苦笑を浮かべるのがわかった。その中に、橘 恵美もどうにか入れてやりたい。そんな思いもこみ上げてくる。無事であってほしいと。
黒い不安の色と熱い意欲が混ざって、思わず怪訝に顔をしかめる。なぜか涙してしまいそうになるのを、どうにか堪えて唇をぎゅっとかみ締めた彼の顔を黙って見ながら、女の子たちはその話を聞いた。
「そうだね…うん、うん。
私たちだけじゃない。
今までみたいに先生とも、部活していかなきゃいけないよね!」
そう言った星川は密かに思った。さっすがミスター吹部、なんて。
…あんまり他の吹奏楽部さんを見たことないからわからないけど、ほんと、君って根っからの吹部野郎、って感じだよね。熱血!…って感じじゃないし、冷めてるみたいに見える時もあるけど、ほんとはすっごく練習熱心で。文化部だけど、運動部みたいな。そういう感じ、ほんと“らしい”よね。
今日は部の空気も悪かったせいか、久々に選挙ポスターと同様の気持ちの良い笑みが飛んだ。また、白雪も、同意してうんうん頷く。
「私も、演奏会の進行や企画、
しっかり書いていきますので。
曲の出来だけでなく、そうした部分も
滞りなく進めて、先生の不安を少しでも
取り除けるよう、頑張りたいです」
「…うん。
お願い。よろしく」
だが、またも詩織ひとりだけは、歯切れの悪い様子。
ただこれは、彼の言うことが著しく間違っていると思うから故の沈黙ではなかった。その沈黙を破り、白雪と星川の声が止んだところで、詩織は「あの」と、切り出した。今までも言おう言おうと思っていたことを。
「直人君、その…」
「…?なに…?」
「今、話し合いの時って、
私が前に出ているんだけど…。
でも…本当は、あなたがここに立った方が
いいんじゃないかって、思うの」
「…え?なんで。
…もしかして、なんか言われたの?
詩織が仕切るのが嫌だ的なこと」
「う、ううん!そうじゃないけど…。
ただ、私はその方がいいと思う」
詩織は、以前、光にもその考えを話したことがある。突然の思いつきでこんなことを言うわけではない。だが、直人には、あまりにもこの提案がぴんと来なかった。それほどに、優等生のお隣さんが前に立つのは、望ましいことだと思っていたのだ。
「…何言ってんの。
そんなわけないじゃん。
俺に詩織以上のことできるわけ…」
「そんなことない。
この部には、あなたに誘われて入部した人や、
あなたを目標にしている人も数多く居るわ。
今までの舞台でも前に出たり、
アンコンでもサックスのみんなと結果を
出して来たし…パットの演奏会の時も、
みんなを引っ張るようなアイディアを出してくれた。
…今はとても辛い状況だけど、
でも、きっと。そんなあなたの諦めない姿勢や、
吹奏楽部員としての在り方に、
希望を見出す人も多いと思うの。
だから。あなたがいつも通りに頑張ってることを、
少しだけ前に出てやるだけでいいと思う。
…みんなを、引っ張ってあげてくれないかしら。
もちろん、あなたに全部任せるわけじゃない。
私も、星川さんやみんなも、協力は惜しまないわ」
「……は?
いやいやいや、何、それ。
待って。俺がそんな「部長」みたいなこと…
できるわけねーっしょ。
ね?星川さん」
直人が苦笑気味に詩織の言葉を阻むと、A組の学級委員は表情を曇らせる。が、彼に同意を求められた星川も、直人の冗談混じりなそれに、首をかしげてしまう。
「んー…でも、いいんじゃないかな」
「は??」
「だって、そりゃ高見君は藤崎さんみたいに
優等生!って感じじゃないけど、
部活ではちゃんとしてるもん。
自分のことだけじゃなくて、
色んな人教えたり、話し合いでいい意見出したり、
あっ、あと、打楽器運ぶ時とかも結構重い楽器率先して
手伝ってるし!」
…すっげーよく見てんなぁ。
さっきまでの暗い気持ちが吹き飛ぶような気持ちの良い笑みと、褒め言葉を受け取って、また苦笑が出る。こうなると白雪も他の2人に同調して、直人に前へ出ることを薦めるようになってしまう。
だが、そんな期待に、どうしても応えられない理由が、彼にはあった。
元名門の名を引き継いだこの部の名前を汚さないため、ズボンを下げられなくなるとか、上着のボタンも閉めずにいられなくなるとか、そんなレベルの話ではない。
「……。いや。
ないない。マジでそういうの、ないから。
だいたいそういうさ、俺が好きでやってること
勝手に持ち上げられて、希望だなんだとか言われても
全然意味わかんないし。
悪いけど今までやってきたことは、
別に誰かに見せたりしたいとか
モテたいとか思ってポイント稼ぎのためにやってたんじゃないから」
「なっ、そんなこと…一言も言ってないじゃない。
…不安なのはわかるわ。
でも、お願いだからそんな、憎まれ口を叩いて
わざと突き放すようなこと、言わないで」
学校中でも最高レベルに綺麗で白い顔が、悲しげに歪む。その言い様は、またも星川の人を見る目に、よく映った。…もしかして、昔っから高見君のそういうところ、よく見てきたのかな、と。
だが、顔も向きも逸らした魔法使いは、かつての姫君の顔も見ず、首を横に振るばかり。
…やっと言い争いなんてせずに、小さい頃みたいに同じことを一緒に頑張れるのに。とか、言いたそうな顔してんな。でも…。
「…いやいやいや無理無理。
俺、悪いけど誰かさんみたいに完璧じゃないから。
できないことばっかだし自分のことだけで精一杯なんだよね」
「そんな、そういう言い方って酷いよ。
高見君らしくない」
「……らしいって。
…星川さんに何がわかんの?
俺の。
俺が毎日何のためにこいつを吹いてるかなんて…」
そこまで言いかけて、はっとした。この場に居ない方のお隣さんの声が、何故か脳裏で聞こえた気がしたのだ。…だめ!と。
「………ごめん。
ほんと。言い過ぎた。
とりあえず悪いけど俺には、そういうのはできないから。
じゃあ…」
憮然とした蒼白な真顔を引きずって、「こいつ」をかるい直し、いそいそとその場を立ち去ろうとする。中学時代に自らの血肉に通った、攻撃的な性。それが、敬愛する人たちに雨を降らせて、今みたいな悲しい表情に変えてしまうところを、見ないようにするかのように。
「…直人君!」
その背を追いかける声に、振り返らず、立ち止まる。
「今すぐじゃなくてもいいから。
ゆっくり考えてみて」
だが、もうその声にも彼は応えなかった。首は振り向こうとするかのように何かうろたえて動いたが、結局後ろを向かないまま、無言で彼は音楽室を立ち去ってしまう。
「直人君…?」
扉を開けて出てきたところ、陽ノ下 光が練習を終えようとしていたらしく、マウスピースにキャップを填めていたが、彼女のそんな声にも、直人は返答をよこさなかった。
追いかける視線の向こう、いつか全校集会で見た後ろ姿が、やけに早足で遠のいていくのを、光は不安げに、角を曲がって見えなくなるまで見届けた。
…俺が前に出て仕切る?
……そりゃ、できなくはないよ、やれっていわれたらやるかもしれない、今のきら高のみんなとなら。
でも……俺は、いつまでもここに居られない。
この定演が終わったら…あっちに行かなきゃいけない、みんなの敵になるようなことも、あるってことじゃん…。
……無責任に背負ったりできない。
階段を降り、名残惜しく響く真面目な部員の練習の音から遠ざかる。そうして歩いて、校舎から出る頃には、徐々に先行きへの不安の中へと、後悔が入り混じり始めた。言ってはいけないことを口走りかけたこと、言いすぎたこと、詩織たちを暗い表情にしてしまったこと…。
思わずため息が出る。
しかし今後、定期演奏会開催までは、誰にも言えない思いを抱えながら頑張らなくてはならないのだ。また、誰かに当り散らしてしまうことも、短気な自分ならあるかもしれない。その時に毎回、都子にいさめてもらえるとは限らない。
…誰かに愚痴れたらな、こういうの。
それでなんとかなるわけじゃなくても、なんとなく…。
……八重さんとか華澄さんも、こういう気持ちだったのかな。
今、初めて気付いた。
親の心子知らずなどとよく言うが、実際に子を持ってみないと、誰も同じ苦しみはわからないのだろう。彼もまた、同じように「誰にもいえないこと」を持つことでようやっと、他者の苦しみをリアルに想像することができた。
…先生。あれから、どうしてんのかな。
最近はいつも廊下ですれ違う時も、ぎこちない笑みを申し訳なさそうに浮かべてくる先生。これまでの優しい笑みになれなかったあのなりそこないの笑みでも、大きな傷を庇いながらのそれだと思うと、やっぱり思う。強いなと。
…なんとなく。
華澄さんと、ちゃんと話したいな。もう俺だって、遊んで遊んでって言ってたガキじゃ、ないんだから…。
そう思うと、話し相手の居ない帰り道、勝手に手が動いた。もう殆ど、冷静な思考ではない。音楽室での後悔と、隣町の校長室での憂慮。それが彼の中のストッパーを決壊させ、ケータイを弄るのに困らない手袋も相俟って、いつの間にやら、やってしまっていた。
「発信中 麻生 華澄」
耳に当てたケータイの画面にはそう書かれている。だが、十中八九、応じてはくれないだろうと心のどこかでは思っていた。
なのに。
[……もしもし?]
「…もしもし。
今、だいじょぶですか?」
[う、うん。どうしたの…?]
「……。
あのさ、先生」
多分、つづく
" きらめき高校吹奏楽部 ~もしきら高に歴代ヒロインがみんな居たら~ 遠ざかる前進" へのコメントを書く